訳語確定の試行錯誤

違和感をひも解いた先にあったもの

「トレース」以前の問題

違和感をどう「料理」していくか。

昨日はビデオセミナー2783号:AI時代の特許翻訳学習法での

管理人さんのアプローチの仕方をトレースすべく、

前回の対訳学習で「何か違和感あるんだけどまあこういうものか」で

深く追求しなかったことに、少し突っこんでみました。

 

「素材」が違っても同じように華麗にさばけるプロには程遠いんですが、

丁寧にやっていくことで、見えてくるものもありました。

ただ今回、「そこ?そこに違和感感じるの?」ていうポイントです。

もっと言うと、自分のレベルが丸裸になってしまってますが、気にせず書きます。

 

今回もこちらから引用しています。

  • 原文タイトル:Solderable polymer thick film conductive electrode composition for use in thin film photovoltaic cells and other applications
  • 原文:US9024179B2
  • 公開訳:特表2014-524100
  • 内容の要約:太陽電池用の電極材料である導電性ペーストと、太陽電池の電極形成方法に関する。特定の組成と比率のバインダー樹脂を採用することで、導電性を確保しつつ、はんだ付け性を改善させ、基材との密着性を高めた電極を形成することができる。

該当箇所を引用します。

今回は青字部分とオレンジの部分について、自分の感じた違和感と、

どのようにその違和感を解決していったのかをまとめます。

原文:

The polymer resins required include a phenoxy resin, i.e., a polyhydroxyether resin, which allows high weight loading of silver-coated copper and thus helps achieve both good adhesion to indium tin oxide (ITO) substrates and low contact resistivity, two critical properties for conductive electrodes in thin-film photovoltaic cells. 

公開訳:

必要とされるポリマー樹脂には、フェノキシ樹脂、すなわち、ポリヒドロキシエーテル樹脂があり、この樹脂は銀被覆銅の高重量配合量を可能にし、ひいては酸化インジウムスズ(ITO)基材への良好な接着性と低い接触抵抗率との両方、薄膜光電地の導電性電極の2つの重要な特性を達成するのに役立つ。

 

言葉の使われ方を丁寧に調べる

high weight loading of silver-coated copperのほうからです。

その前に、この文章の前後について少しだけ説明をします。

 

今回の発明である、はんだ付け可能なポリマー厚膜導電性電極組成物(solderable polymer thick film conductive electrode composition)の組成についての一文です。

導電性の確保のために、今回の組成物には銀が必須の材料として含まれます。

但しお高い銀をそのまま使うのはコストもかかりますし分散もしにくいので、

まず銅を銀で包み込んだ「銀被覆銅」の形にします。

そして、電極は基材上に塗布して形成するため、塗布しやすいように樹脂に分散させます。

この一文では、そのために必要な樹脂についての説明がされています。

 

樹脂の中に銀が多ければ多いほど、導電性に優れます。

今回の樹脂は多くの銀(銀被覆銅)を取り込める樹脂なので、

それだけ導電性を高める(抵抗率を低くする)ことができるのですね。

「多くの銀被覆銅を取り込める」ことをhigh weight loadingと言っているのですが、

当初自分で訳すときに、

意味は分かるけど、何と訳すのが適当かと一瞬戸惑いました。

最終的に当時の自分は「この樹脂は銀被覆銅の高配合を可能にし~」と訳していました。

公開訳は上記の通り、「高重量配合量」です。

 

もう一度見返した時に、公開訳はひとまず置いておいて、

なぜ自分は「高配合」と訳したのかという疑問が生じました。

(ちゃんと訳出の過程のメモを残していませんでした。これがまず反省ポイントです)

 

恐らく、下記のような思考を経てだったと思います。

loading はここでは「配合」の意味だ(辞書を調べる)

→ high weightは高重量?そんな言い方はないな(一応「高重量」で調べた記憶があります。この文脈では使われないと確認しました)

→ 高配合という使われ方はされている(googleのフレーズ検索で、特に分野を限定せず)

→ じゃあ、「高配合」でいいな。weightは・・・「高配合」ということは多くの量が入っているということが自明だからわざわざ「量」を付ける必要はないだろう。「高配合量」という言い方もあまりされていないし

結論から言って、ここは「高配合量」にすべきだと考えています。

当初、特許庁のデータベースに入って「高配合量」で検索して使われ方を調べる、

ことをしていませんでした。

今回検索してみると、ポリマーの配合に関する文脈上で

「高配合量の~」「高配合量で用いる」などの使われ方がされていることがわかりました。

英文側でも同じ文脈で「high weight loading of」という言い方がされていることを

確認しました。

 

公開訳の「高重量配合量」はなかなか意味不明ですが、weightを「重量」とした

「高重量配合」という訳語が同一出願人の明細書に固まっていたので、

そこから引っ張られたのかなと思います。

 

ともあれ、私も当初言葉が当業者に使われているかどうか、の視点で確認をせず、

勝手な思い込みに基づいて決めていた部分があります。

些細なところかもしれませんが、自分がいかに「丁寧さ」に欠けていたのかを

思い知りました。

 

自分の「思い込み」に気が付く

もう一つは、「indium tin oxide (ITO) substrates」に対する違和感です。

これは訳している最中は感じず、改めて見直ししている時に引っかかりました。

当初は公開訳の通りに、

「酸化インジウムスズ(ITO)基材」とそのまま訳していました。

 

今回なぜ引っかかったかと言うと、

「ITOは薄い膜なのに、それに対して基材というのはどうなの」と思ったからです。

ITOというのは、今回の薄膜太陽電池の構造でいうと、上部に配置される薄膜です。

下記の図でいうと、黄色の部分です。

私の頭の中で、substrate=基板(基材)=一番下の土台になるもの、

という「イメージ」がずっとありました。

この図でいうと、一番下の金属層を堆積したポリエステル層の部分です。

なので、ITOは表面の薄膜なのにそれを「基材」=土台ということに

違和感を感じたわけです。

 

ただこれは、完全に自分の思い込みだということに気が付きました。

辞書や使われ方を調べる過程で、

substrate(基材)本来の意味は、他の物質がその上部に乗る層であって、

何も一番下であるとは限らない(英語版wikipediaなどより)ことがわかったからです。

いや、半導体少しでも勉強してきて、それはないんじゃ・・・と

自分でも思うのですが、そのくらい一つ一つの言葉を調べず、

「何となくわかった」で進めていたということです。

 

例えばこの明細書の中でも

そういう広い意味でのsubstrateで使用されていることもあれば、

「土台」部分を指してsubstrateと言っていることもあります。

この文脈でのsubstrateは一体何を指しているのか、を考えずに

機械的に(半導体関連ならば)substrate = 基材と「あてて」いました。

 

今回の文章に限って言えば、ITO膜を堆積させた基板という意味で

「ITO基板(ITO基材)」というのは問題がないんですが、

「酸化インジウムスズ基板(基材)」では検索にほとんど引っかかりませんでした。

「シリコン基板」のような言い方で、

「ITO基板」と言うのは当業者にとって馴染みがあっても、

「酸化インジウムスズ基板」はなじみがない(使わない)と言うことでしょうね。

 

結局のところ、「考え方の道筋を学ぶ」前の問題がいろいろあることがわかりました。

このまとめにしてもそうです。

(今日は特に、自分でもまとまらんなーと思いながら書いてます)

一つ一つ焦らず、でも時間的感覚を持って、やっていきます。

 

学習記録

10/12(金)の学習記録

項目: 昨日のノート作成の続きと前回の対訳学習での
   「違和感」にもう一度立ち向かう
目標: 3h   実績:6h

項目: トライアルに向けての学習(半導体)
目標: 3h30m 実績: -
メモ: 背景知識の調査の続きから→
    「違和感」調査に時間をかけてしまう

10/13(土)の学習計画

項目: トライアルに向けての学習(半導体)
目標: 15h   
メモ: 調査の続きに8hほど使う予定