訳語確定の試行錯誤

英語力の問題か専門知識の問題か性格の問題か

「問題」がぎゅっと詰まった一文

今日は昨日の夜、「翻訳の布石と定石」の学習で感じたことを取り上げてみます。

まだ生焼け状態なんですが、新鮮なうちにちょっと味わっておきたいと思います。

この一文に、今メインで取り組んでいるトライアルに向けた学習でも感じた

「自分の訳出の問題点」がコンパクトにまとまっていたからです。

 

問題の例文は、特許明細書からの一文でした。

Lack of DHFR activity results in inability of cells to grow except in the presence of those compounds which otherwise require transfer of one carbon units for their synthesis.(EP0117058B1)

この単元では、”Lack of — results in inability of”という構文をどう訳すかに焦点が当てられているのですが、私はそれ以外の所でつまづいていました。

 

 

バイオ系が入っていてパッと見何を言っているのかさっぱり見えてきませんでした。

なのでまず、DHFRって何だ?というところから15分くらいでざっくり調べました。

おおよそ下記のような知識を得てから翻訳したのですが、どうもしっくりこない部分がありました。

  • DHFRというのが葉酸を活性化させるために使用される酵素である
  • 一炭素単位の転移反応というのが生体恒常性(ホメオスタシス)の維持に大切である
  • その転移反応のキャリアとなるのが葉酸。つまり葉酸が欠乏すると生体恒常性に支障をきたす

 

私の訳文と、訳例です。

<原文>

Lack of DHFR activity results in inability of cells to grow except in the presence of those compounds which otherwise require transfer of one carbon units for their synthesis.(EP0117058B1)

<私の訳文>

DHFR活性が欠乏すると、合成のために一炭素単位の転位を他に必要とする化合物が存在している場合を除き、細胞が成長できなくなる。

<訳例>(「翻訳の布石と定石」p.51より)

DHFR活性を欠いていると、合成するためにC1単位の転位が本来なら必要な化合物が存在する場合を除き、細胞が増殖することはできない。

 

見えた「差」を全て挙げているときりがないので、下記2点に絞ります。

(1)grow の訳出

growの意味を辞書で引くこともなく、grow=成長という頭の中の辞書をもとに、「細胞の成長」と訳しました。

訳例が「細胞の増殖」となっているのを見てはじめて、自分が「細胞の成長ってどういう現象なのか」を考えずに(イメージを持たずに)訳していたことに気付きました。

wikipediaの成長の項目には、「成長とは、ある生物が、その生活史において、個体がその発生から死に至る過程で、もっともよく発達した形へとその姿を変える間の変化をさす」と書かれています。

細胞は細胞分裂を繰り返して増殖することで成長するので、訳語としては増殖のほうがより適切なのかと感じましたが、1つの細胞が大きくなることも成長の範囲には入るでしょうし、その場合は「増殖」ではなく例えば「増大」とする方が自然なのかもしれません。

「grow」がどういう現象を指しているのか理解できていなければ、やはり「成長」と広く訳出するしかないと思います。

この例から、growのような簡単に見える言葉でも、ちゃんとコンテクストを追って訳さないと不自然な訳、あるいは誤訳につながり得ること、そして最近だいぶ改善したと思っていた「置換モード」がまだのさばっていることに気付かされました。

 

(2)otherwise の訳出

悩んだのはこの単語です。

さもなくば、他の点では、その他の方法で・・・どうもしっくりきません。

10分ほど悩んだのですが結論が出なかったので、ギブアップして訳例を見ました。

訳例は上記の通り、「本来なら」となっています。

 

見た瞬間、ん、本来なら?

otherwiseにそんな意味があったかな?と思いました。

辞書をもう一度見たら、海野さんの辞書の訳例としてばっちり載ってました。

例えば、下記などです。

◆ These shortcomings blemish an otherwise splendid product. これらの欠点が, さもなければ[(意訳)本当だったら, 本当なら, 本来なら, 元来なら]素晴らしい製品に傷をつけている[(意訳)商品の品質を損なわせている].(ビジネス技術実用英語大辞典V6より)

辞書は一通り見たのですが、この訳例は全く目に留まっていませんでした。

「otherwise」の大本の意味は「他の方向」を指すので、「今とは違う=本来なら~」という訳語になってもおかしくないなというのは理解できます。(こちらのサイトなどを参照しました)

 

問題は、なぜこの文章で「本来なら」と使われているのかが理解できていないことです。

それは、この文章の意味がわかっていないからに他ならないわけですが、仮に内容をほぼ完全に理解できていたとしたら「本来なら」という訳語を当てられたのだろうか、と思いました。

このテキストを使用した学習は、あくまで訳し方の型を身につけることが目的なので、一文を切り取った内容にまでいつも深くは踏み込んではいません。

この文についてもこれ以上深追いはしませんが、「やっぱりわかってないで翻訳するとわかってない文章になる」ということが改めてわかったので、取り上げてみました。

 

ちなみに公開訳があるのか気になって調べたら、ありました。

<公開訳>(特開平6-165672)

DHFR活性を欠いていると、その合成に1つの炭素単位の転位が必要とされる化合物が存在する場合を除いて、細胞は成長することができない。

<解答例>(「翻訳の布石と定石」p.51より)

DHFR活性を欠いていると、合成するためにC1単位の転位が本来なら必要な化合物が存在する場合を除き、細胞が増殖することはできない。

 

あれ、otherwise、どこに行った?

その他もツッコミどころがありますが(1つの炭素単位と一炭素単位(C1単位)は意味が違うんじゃないかとか)、ここまでにします。

 

といいつつ最後の問題点だけ挙げます。

(3)変なところにこだわり前が見えなくなる

30分ほど残業して帰ってきて、疲れがたまっているので今日は早めに寝ようと思いつつ、この件にはまってしまいました。

夢中になっている最中は、疲れが吹っ飛んでるんですよね。

脳内麻薬、恐るべし。

 

とは言え、今回もメインと外れたとこに延々と引っかかってしまった感があります。

毎回終わってからはっと気づいてどっと疲れが出ます。

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