日々の学習記録

サーマルバジェットと熱履歴と熱予算

半導体の熱処理プロセスに、「サーマルバジェット」という概念が出てきます。

サーマルバジェット(thermal budget :熱履歴)とは、熱処理工程の総和という概念の事で、デバイスの信頼性確保のために可能な限り少ない方が良いと日本半導体製造装置協会の資料に記載されています。

パターンの微細化によってより浅い接合が求められていること、ウエハの大口径化で熱による歪みが発生しやすくなっていることなどから、サーマルバジェットの低下、つまり低温・短時間での熱処理が求められています。

 

この概念が実際に明細書でどのように使われているのかが気になり、該当部分のみノートに切り貼りして確認しました。一部を挙げます。

【0005】
また、素子の回路配置の縮小は、半導体製造の間に行われるさまざまな処理ステップに対する熱履歴(thermal budget)の低減を必要としている。

(公表番号:特表2007-531304)

【0005】(一部略)近年、半導体装置の微細化を進めるため、MOSトランジスタ等に加わる熱履歴(Thermal Budget)をできるだけ低減することが求められている。すなわちMOSトランジスタ形成後に加わる熱履歴を低減することにより、短チャネル効果等を防止し、高性能な半導体装置を形成することが可能となる。

(公開番号:特開2010-262989)

明細書からも、やはり微細化によってサーマルバジェット(熱履歴)の低下が必要とされていること、短時間・低温で済むプロセスの開発がすすめられていることがわかりました。

 

上では「熱履歴(Thermal Budget)」となっている明細書をあえてピックアップしました。実際は「熱履歴」、または「サーマルバジェット」と記載してある明細書のほうが多いです。

なぜピックアップしたかというと、thermal budgetでgoogle検索するとweblio内の検索結果が次のようにトップページに表示されたからです。

thermal budgetの意味や使い方 訳語 サーマルバジェット;熱予算

熱予算?直訳したらそうだけど、日本語としてどうなのかと思いながらそういう言い方もあるのかと念のため検索しましたが、少なくとも半導体関連ではありませんでした。

ただ、特許明細書には出てるんですよね、この表現。しかも100件近く。例を挙げます。

【0079】(一部略)しかし、横方向の最大拡散距離は拡散処理に関与する熱予算により(すなわち第1の拡散処理中の温度と持続時間により)ほぼ調整され得る。一実施形態によると、熱予算は横方向の拡散幅が半導体ボディの厚さdにほぼ対応するように選択される。

(公開番号:特開2016-42574)

【0004】
(一部略)高速な加熱ヒーターは、均一加工のためにより多くを提供する優れた温度均一性及び制御があり、またその短い反応時間が製造されたデバイスの熱予算を減少させるので、抵抗加熱炉よりも好ましい。

(公開番号:特開2014-209640)

内容からしても、「サーマルバジェット」のことを言っていますし、昔の訳をそのまま引っ張っているのかなと思いました。

ただ、「熱予算」でヒットした検索結果を見ていてあることに気づきました。出願人が海外の案件に混じって、とある日本の大手企業の名前が何度も登場してきたのです。

えーっと、これはもしや、やはり「熱予算」という言い方はあるのか?と思い、明細書の該当箇所をいくつか見てみました。

【0019】
NiSi、Pd2Siを用いた場合には、後工程を600℃以下の低温プロセスで処理しなければならず、600℃以上になるとNiSiはNiSi2に、Pd2SiはPdSiに相転移し、シリサイドとSiの間で、界面の凹凸が大きくなる。そのためシリサイドを形成した後の熱処理には温度の上限がでてくる。

【0020】
通常のn+またはp+のSi上にシリサイドを形成した場合には以上の説明からわかるように熱予算(Thermal Budget)を組めば問題を解決することができる。

(公開番号:特開2010-267991)

浅い拡散層を形成するためには、イオン注入の際に不純物原子を浅く分布させることが必要である。これに加えて、その後の熱処理で不純物が深く拡散しないように、少ない熱予算を組むことも要求される。しかしながら、熱予算を低減させた場合には、結晶欠陥を充分に回復することができずに残留してしまう。

(公開番号:特開2007-150321)

やっぱり意味としては「サーマルバジェット」のことでしょう。なぜ「熱予算」としているのでしょうか。

 

ここから興味本位で趣味的のお勉強的に調べてしまい大変反省しているのですが、調査結果と思うところを書いておきます。

推論1:この会社のルールだから

調査結果1:出願人+「熱履歴」でPlatpat内を全文検索したところ、こちらの方が圧倒的に多くヒット(約500件。「熱予算」は15件)。会社全体のルールではないようです。

推論2:特定の発明者が使用している言葉だから

調査結果2:「熱予算」は数名の筆頭発明者の出願した特許に集中していました。

結論:あくまで推測ですが、特定の発明者(もしくはそのチーム)特有の表現だと思われます。

ただ勝手な想像ですが、何となく熱履歴でなく熱予算とした意図があるような気もするんですよね。「熱予算を組む」という表現、確かに違和感はありますが、「予算(=与えることが可能な熱の総和)」をあれこれやりくりする、という意味だと考えたら理解はできるな、と思いました。

 

特許明細書でも、「熱履歴(thermal budget)」と括弧つきになっているものも多かったので、定訳がなく、表現が揺らいでいるということかもしれません。

こういうことをしてると無我夢中になってしまうのですが、言葉を追いかけて楽しんでいる場合ではありませんでした。

調べる前に気づいて止めなくては。

やることは山積みなので、本流(半導体プロセス)の学習へ戻ります。

 


9/12(水)の学習記録

項目: 半導体プロセス(不純物導入技術)の学習・・・の予定でしたがその前にサーマルバジェットその他調べものに時間を費やす
目標: 6h   実績:4h40m
メモ:3時起床+体調が微妙で途中休憩しつつ

9/13(木)の学習計画

項目: 半導体プロセス(不純物導入技術)の学習
目標: 6h30m