メディカル学習帳

ヘモグロビンの吸光率と光学的窓

こんにちは。

突然ですが、

人が一生懸命説明しているのに、どうしても他のところに注意がいってしまうことってないですか?

 

上司から注意をされてる時に、上司の口元についてるご飯粒が気になってお小言は右から左へ抜けていく。

憧れのあの人と話している時に、どうしても顔より見てしまう場所がある。

 

グラフを見るときも、注目する場所は恐らく人によって違うはずです。

見るポイントが違うと評価も違いますね。

今日はそんなお話です。

 

じゃあ、そっちは何なの?

次の図は、レーザーの各種波長別の、吸収・散乱の強さを示した図です。

 

(出典:文部科学省

先日、私は上のグラフを使って、次の記事で波長と水の吸収率の関係について説明しました。

 

水に対する吸収率はわかった。

で、その横のヘモグロビンは何か意味があるの?

光学的窓って何?

水に対する吸収率を説明するのに、本当はヘモグロビンに対する吸収率との関係を考えないといけないんじゃないの?

・・・という疑問が、私自身にも湧き上がってきました。

 

ということで、今日はヘモグロビンと、その横の謎のゾーン、「光学的窓」について迫っていきたいと思います。

ヘモグロビンの吸収率が高いとどうなる?

ヘモグロビンは赤血球に存在するタンパク質の一種で、全身に酸素を運ぶ、「運び屋さん」ですね。

タンパク質ですので、熱を加えられると変性し凝固します。

そのため、ヘモグロビンに対する吸収率が良い波長は、血液に作用させるには最適な波長となります。

ヘモグロビンに対する吸収率の高さを利用した医療用レーザーの代表例は、網膜光凝固術です。

 

網膜光凝固術とは、その名の通り網膜にレーザー光を照射して凝固させる施術です。

(出典:出水眼科

この施術の適応疾患はいくつかあるのですが、有名なのは糖尿病の合併症の一つの糖尿病網膜症の治療でしょう。

糖尿病によって血管が塞がれ血流が悪くなると、酸素の供給が不足します。

待っていても酸素は供給されませんので、細胞は新しい血管(新生血管)を生やして酸素を取り込もうとします。

新生血管はもろいので容易に出血し、その後かさぶたのようになってそれが後々に網膜剥離を起こす可能性があるため、施術が必要となります。

 

眼科用レーザーに関しては、実はヘモグロビンの吸収率以外にも水晶体の濁りに対する透過性、黄斑などの色素に対する吸収率など、他にも様々な要素を考慮に入れて、最適な波長のものを選択する必要があります。

そのため、眼科用レーザーは1台で緑色、黄色、赤色など複数の波長を選択できるものが主流で、症状に応じて使い分けをしています。

 

「光学的窓」って何?

次に、「光学的窓」です。

ヘモグロビンと水、どちらに対する吸収率も低い箇所です。

近赤外領域の700~900nmあたりですね。

どちらにも吸収されにくい・・・ということは、透過しやすいということです。

透過しやすいという性質を利用して、生体へ向けてレーザーを発振してそのフィードバックをデータにして診断する、各種の診断用途などに用いられています。

診断の仕組みはいろいろあるのですが、ここではその中でも面白いなと思った「光トポグラフィー」という診断方法と、静脈を用いた認証方法についてご紹介します。

「光学的窓」の利用方法

2つのヘモグロビン

と、その前に、お断りしておかなければならないことがあります。

実はヘモグロビンには2種類あり、光に対するそれぞれの吸収率は異なるということです。

そして、次にご紹介する用途は、その吸収率の差異を利用しています。

 

ヘモグロビンの種類は、下記の通りです。

  • 酸化ヘモグロビン(オキシヘモグロビン・HbO2):酸素と結合したヘモグロビン。
  • 還元ヘモグロビン(デオキシヘモグロビン・Hb):酸素と結合していないヘモグロビン。

(出典:文部科学省

左側の600nm~700nm付近では、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸収率の差が大きくなっていますね。この波長領域を利用します。

 

その1:光トポグラフィー

光トポグラフィーとは、2つのヘモグロビンの吸収率の差を利用して脳の機能を診断する装置です。

「光学的窓」の波長は透過率が高いとはいえ、頭部を透過させるのは難しいため、光ファイバを利用して入射しています。

反射され戻ってきた近赤外線に含まれる、酸化ヘモグロビン・還元ヘモグロビンの変化量の違いから、脳への酸素の供給状態、代謝の状態を知ることができます。

(出典:島津製作所

脳の血流の変化を測定することで、抑うつ症状の診断の助けになります。

 

 

その2:静脈認証

これは個人的になるほど!と思った利用方法です。

手をかざして本人確認を行う認証方法の「カギ」として、静脈パターンが用いられています。

 

左側の600nm~700nmの近赤外光は、還元ヘモグロビンには吸収されますが、酸化ヘモグロビンは吸収されません。

酸化ヘモグロビンは酸素を持っていますから、酸素を送るための通路である動脈に存在しています。

そして還元ヘモグロビンは、酸素を各組織に渡した後の静脈に存在しています。

そのためこの波長の光を照射した場合、還元ヘモグロビンが含まれる静脈は光を吸収して黒く写り、動脈は反射され白く写る、ということになります。

 

(出典:富士通フロンテック

そうして得られた画像が「静脈パターン」で、このパターンはひとりひとり異なり一生変わりません。

そのため、生体認証の手段として用いられているのですね。

まとめ

ヘモグロビンに対する吸収率の高さを利用するレーザーは、主に眼科用レーザーとして利用されています。

また、ヘモグロビンと水のどちらにも吸収されにくい「光学的窓」の領域では、その特性を利用した様々な画像診断方法が用いられています。

特にこの領域では、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸収率の違いから血流状態や酸素の供給状態が読み取れるため、体内の機能的情報を得る手段として優れています。

 

ひとつのグラフから今回、3つの記事に分けてお話しました。

触れていなかった「散乱」との関係、そしてメラニンなどの色素との関係などもありますし、まだまだお話したいことはたくさんあります。

光の特性、生体の光特性、本当に奥が深いです。

学習をさらに進めたら、このグラフの見方も変わってくるのかもしれません。

その時はまた記事を更新します。

 

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