バイオ・医薬

ジカウイルス用mRNAワクチンの明細書の翻訳

今回は、先日学習用に翻訳したジカウイルス用ワクチンに関する特許明細書を、解説しながらご紹介していきます。

明細書詳細

  • Title:ZIKA VIRUS RNA VACCINES
  • PCT Publication No. : WO2019055807A1
  • Publication date : 2019-03-21
  • Applicant : MODERNATX,INC
  • Espacenetの該当明細書へのリンク (pdfはこちら
  • mRNAワクチン全体(特に新型コロナウイルスに対して)の調査記事はこちら
  • 翻訳前の準備についてはこちら

 

発明の背景

短いので、まず背景技術部分を、原文・訳文ともに全文記載します。

要点としては、ジカウイルスは、発症しても症状としては軽度ですが、感染によって特に胎児へ与える可能性のある影響が深刻であることから、感染症防止のためのワクチン開発が進められている、ということです。

sentinel Rhesus monkeyなどの箇所は、説明用に下線を追記し、太字にしています。

原文

BACKGROUND

Zika virus (ZIKV) was identified in 1947 from a sentinel Rhesus monkey in the Zika Forest of Uganda. Historically, ZIKV circulated between Aedes species mosquitoes, non- human primates in the jungle, and episodically spilled into human populations in Africa and parts of Southeast Asia. Infection was associated with a mild, self-limiting febrile illness characterized by headache, rash, conjunctivitis, myalgia, and arthralgia. Since 2010, and especially in the context of its spread and dissemination to countries of the Western Hemisphere, more severe clinical consequences have been observed. Infection of fetuses in utero during pregnancy, particularly during the first and second trimesters, has been associated with placental insufficiency and congenital malformations including cerebral calcifications, microcephaly, and miscarriage. In adults, ZIKV infection is linked to an increased incidence of Guillain-Barre syndrome (GBS), an autoimmune disease characterized by paralysis and polyneuropathy. In addition to mosquito and in utero transmission, sexual transmission of ZIKV has been described from men-to-women, men-to-men, and women-to- men. Persistent ZIKV infection can occur, as viral RNA has been detected in semen, sperm, and vaginal secretions up to 6 months following infection. Thus, ZIKV is now a global disease with locally-acquired and travel-associated transmission through multiple routes in the Americas, Africa, and Asia. The emergence of ZIKV infection has prompted a global effort to develop safe and effective vaccines.

訳文(段落番号は省略)

【背景技術】
 ジカウイルス(ZIKV)は、1947年にウガンダのジカ森でセンチネルアカゲザルから同定された。歴史的に、ZIKVはヤブカ属(Aedes)種の蚊とジャングルの非ヒト霊長類の間で循環し、アフリカおよび東南アジアの一部のヒト集団に偶発的に流入した。感染には、頭痛、発疹、結膜炎、筋肉痛および関節痛を特徴とする軽度の自然治癒性の発熱性疾患が伴った。2010年より、特に西半球の国々へのジカウイルスの拡散および伝播に関して、より深刻な臨床結果が認められた。妊娠中、とりわけ第1三半期および第2三半期中の子宮内での胎児の感染は、脳内石灰化、小頭症および流産を含む胎盤機能不全および先天奇形に関連している。成人では、ZIKV感染症は、麻痺および多発ニューロパチーを特徴とする自己免疫疾患であるギラン・バレー症候群(GBS)の発生率の上昇と関連づけられる。蚊による感染および子宮内感染に加えて、ZIKVの性行為感染が、男性から女性、男性から男性、および女性から男性で示されている。感染後最長で6ヶ月、精液、精子、および膣分泌物中にウイルスRNAが検出されていることから、持続性のZIKV感染症が生じる恐れがある。このように、ZIKVは今や、南北アメリカ、アフリカ、およびアジアにおいて、複数の経路を介した地域感染および旅行関連感染を伴う全世界的な疾患である。ZIKV感染症の出現により、安全で有効なワクチンの開発のための全世界的な取り組みが促進されている。

翻訳にあたって、悩んだ箇所をいくつかピックアップします。

 

悩んだポイント(1)sentinel Rhesus monkey

該当箇所を再度引用します。

Zika virus (ZIKV) was identified in 1947 from a sentinel Rhesus monkey in the Zika Forest of Uganda.

ジカウイルス(ZIKV)は、1947年にウガンダのジカ森でセンチネルアカゲザルから同定された。

ここの”sentinel Rhesus monkey”は「センチネルアカゲザル」という種類のアカゲザルがいるわけではなく、”sentinel animal” (歩哨動物)のアカゲザルであると理解しました。

歩哨動物とは、感染症などの因子の存在を確認するためのモニタリング用の動物のことを指します(参考:https://www.emf-portal.org/ja/glossary/3114)。同様の意味で「センチネル動物」とも表記されます。

「アカゲザルは、黄熱病の歩哨動物として~」という記載の複数見られるので(例えば、http://www.kagoshima-vet.com/For%20Citizen/Kagoshima%20Festival/Zika.pdf)、この”sentinel Rhesus monkey”が「歩哨動物としてのアカゲザル」を指していることには間違いないとは思うのですが、問題はどう訳すかです。

「歩哨のアカゲザル」とすると、「見張りのサル」のような意味に取られる可能性もなきにしもあらずと考え、ここはそのまま「センチネルアカゲザル」としました。

ここはそこまで悩むところではないのかもしれませんが、今回のように原文の”sentinel”は明らかに”sentinel animal”を指しているだろうけども”animal”が省略されている場合に、日本語側でどのように表現するのがベストか(補充したり原文を訳文中にかっこ付きで記載することも含めて)は、毎回かなり悩んでしまうポイントです。

ちなみにJ-PlatPatで検索すると、「センチネルアカゲザル」で5件ほどヒットしました。ヒットしたから「OK」とする前に、やはり自分で納得して訳語確定したいものです。

 

悩んだポイント(2)has been described

In addition to mosquito and in utero transmission, sexual transmission of ZIKV has been described from men-to-women, men-to-men, and women-to- men.

蚊による感染および子宮内感染に加えて、ZIKVの性行為感染が、男性から女性、男性から男性、および女性から男性で示されている

has been describedの部分です。

意味としては「Infection has been reported」に近く、このような事例で報告されている(文献に記載されている)ということだと理解しています。

ただ、「記載されている」とすると、やはり「どこに記載されているのか」を書いていなければ文として座りが悪い感じがします(あくまで感覚的なものですが)。

そのため、もう少し抽象度を上げて「示されている」としましたが、ここはもっとよい訳があるはず、なのですが思い浮かばずこのままにしています。

 

本発明の特徴

概要

「背景技術」では、ジカウイルスの必要性について述べられていました。

では、この明細書で開示されているジカウイルス用のワクチンはどのようなものでしょうか。

「発明の概要」の冒頭部分には下記のように記載されています。

SUMMARY
Experimental results provided herein demonstrate an unexpected improvement in efficacy with Zika virus (ZIKV) RNA vaccines encoding a Japanese encephalitis virus (JEV) signal peptide fused to a ZIKV prME protein. As shown in the Examples, the ZIKV mRNA vaccine encoding a JEV signal peptide fused to prME unexpectedly provided sterilizing immunity in non-human primates at a 20-fold lower dose relative to a ZIKV mRNA vaccine encoding a IgE signal peptide fused to prME.

【発明の概要】
 本明細書にて提供される実験結果は、ZIKV prMEタンパク質に融合した日本脳炎ウイルス(JEV)シグナルペプチドをコードするジカウイルス(ZIKV)RNAワクチンによる、有効率の予期せぬ向上を示す。実施例に示すように、prMEに融合したJEVシグナルペプチドをコードするZIKV mRNAワクチンは、意外にも、prMEに融合したIgEシグナルペプチドをコードするZIKV mRNAワクチンと比較して20倍低い用量で、非ヒト霊長類における殺菌免疫(sterilizing immunity)をもたらした。

prMEタンパク質や日本脳炎ウイルス(JEV)シグナルペプチドなどの構造は、とりあえず脇においておきます。

ここで説明されている本発明によるワクチンの特徴は、次の2点です。

  • 有効率が向上する
  • 他のワクチンと比較して、より低い用量で免疫できる

 

ここのefficacyは、本文中の他の記載から、ワクチン有効率(vaccine efficacy)を指していると判断して有効率としています(「ワクチン有効率」の詳細は後述)。

 

悩んだポイント(1)sterilizing immunity

この文章で翻訳中に気になったのは、”sterilizing immunity”という単語です。

そのまま訳すと「殺菌免疫」となるわけですが、あまり聞いたこともなく違和感があります。使用例を見ても、翻訳文ばかりヒットしました。

そもそも、”sterilizing immunity”はどういう意味でしょうか。文脈上、「すぐに中和抗体を大量に産生してウイルスの毒性をなくす免疫」のことを言っているのだろうと推測しました。

論文(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5011745/)には”Sterilizing immunity is a unique immune status, which prevents effective virus infection into the host. It is different from the immunity that allows infection but with subsequent successful eradication of the virus.”とあります。

宿主へのウイルス侵入を防ぐもので、感染後にウイルスを根絶する免疫とは異なる、と書かれています。

当初の理解は概ね合っていたことになりますが、ただ、これをどう訳すのが適当でしょうか。

悩んだあげく、結局「殺菌免疫(sterilizing immunity)」としました。日本語としては「中和免疫」が一番近いとは思いますが、原文が”neutralizing immunity”ではなく”sterilizing immunity”となっている以上、やはり”sterilizing”の意味を反映させるべきだと判断したためです。

 

ワクチンの構造

では、今回のワクチンの構造(構成要素)についてみていきます。

mRNAワクチンというのは、タンパク質に翻訳される塩基配列とそのための構造を有するRNA(mRNA)を含んだワクチンのことです。翻訳されたタンパク質が抗原となって、免疫応答を引き起こします。

明細書では、mRNAワクチンの構造について次のように記載されています。

Provided herein, in some embodiments, are ZIKV ribonucleic acid (RNA) vaccines (e.g., mRNA vaccines) comprising a 5′ untranslated region (UTR), an open reading frame (ORF) encoding a JEV signal peptide fused to a ZIKV prME protein, and a 3′ UTR. In some embodiments, the ZIKV RNA vaccines comprise a polyA tail.

 本明細書において、いくつかの実施形態では、5’非翻訳領域(UTR)、ZIKV prMEタンパク質に融合したJEVシグナルペプチドをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)および3’UTRを含むZIKVリボ核酸(RNA)ワクチン(例えば、mRNAワクチン)が提供される。いくつかの実施形態では、ZIKV RNAワクチンは、ポリA尾部を含む。

これを簡単に図解すると、こうなります。

オープンリーディングフレーム(ORF)は実際にタンパク質として翻訳される領域です。これはジカウイルスのprMEタンパク質部分のみを合成するための配列になります。

ただ、ORFにはこれ以外のものも含まれている可能性がありますが、明細書からは判断できないので上の図のように簡略化しています。

上の図でSPと記載した部分がシグナルペプチドです。

この部分を日本脳炎ウイルス由来のものにすると、ワクチンとしての性能が向上すると明細書に記載されています。

 

実施例

では、次にどのようにワクチンの性能を確かめたのか、実施例と図をみていきます。

非ヒト霊長類を対象として、次の3つを比較しています。

  • 日本脳炎ウイルスのシグナルペプチドを使用したもの(mRNA-1893)
  • IgEのシグナルペプチドを使用したもの(mRNA-1325)
  • コントロール(明細書に具体的に記載されていませんが、おそらく有効成分を含まない溶媒などを投与された対照群と思われます)

 

下記は図1です。それぞれのワクチンで免疫後ジカウイルスに曝露させ、曝露の3~7日後に、対象内でウイルス量がどのように変化したかを示しています(数値が高いほど、対象内のウイルス量が多い=ウイルスが中和されていないことを示します)。

オレンジのJEV(日本脳炎ウイルス)のものは、投与量が少ない(10µg)にもかかわらず、青色のIgEシグナルペプチドよりもウイルス量が低いことがわかります。

下記の図2では、縦軸はEC50 Fold Change (EC50=薬剤が最大値の半分の効果を示す濃度の倍率変化)を示しています。

つまり、どのくらいのワクチンの量で効果が出るかを表しており、数値が低いほど、少しのワクチン量で効果が出る、ということになります。

こちらも、オレンジの枠のJEVシグナルペプチドのものは確かに青色のものよりも数十倍低いですね。

実施例部分の記載は下記の通りです。

EXAMPLES

Non-human primates (n=5) were immunized intramuscularly (IM) with a vaccine composition comprising mRNA encoding either an IgE signal peptide fused to a ZIKV prME antigen (mRNA- 1325, SEQ ID NO:X) (a single 200 μg dose, or a 10 μg, 50 μg or 200 μg dose followed by an equivalent boost at week 4, or a JEV signal peptide fused to a ZIKV prME antigen (mRNA-1893, SEQ ID NO:X) (a 10 μg followed by an equivalent boost at week 4). Animals were challenged at week 8 with 1000 focus-forming units (FFU) of Zika virus. Serum was collected 3, 4, 5, 6 and 7 days post challenge. The data in FIG. 1 shows that while a single 200 μg dose of the mRNA-1325 vaccine conferred nearly complete protection, the mRNA-1893 vaccine unexpectedly provided sterilizing immunity at a 20 fold lower dose. Neutralizing antibody titers (EC50 fold change relative to week 8) are shown in FIG. 2.

【実施例】

 非ヒト霊長類(n=5)を、ZIKV prME抗原に融合したIgEシグナルペプチド(mRNA-1325、配列番号X200μgの単回用量、または10μg、50μgもしくは200μgの用量、次いで4週目に等量の追加免疫あるいはZIKV prME抗原に融合したJEVシグナルペプチド(mRNA-1893、配列番号X)(10μg、次いで4週目に等量の追加免疫)のいずれかをコードするmRNAを含むワクチン組成物で筋肉内(IM)に免疫した。8週目に1000フォーカス形成単位(FFU)のジカウイルスに動物を曝露させた。曝露3日後、4日後、5日後、6日後および7日後に血清を回収した。図1のデータは、mRNA-1325ワクチンの200μgの単回用量はほぼ完全な防御を与える一方で、mRNA-1893ワクチンは、意外にも20倍低い用量で殺菌免疫をもたらすことを示す。中和抗体価(8週目に対するEC50の倍率変化)を図2に示す。

よくあることですが、原文の括弧が抜けていますね(青色ハイライト部分)。ここは補いました。

あとは、謎の”SEQ ID NO:X” ですが、これもおそらく原文のミスではないかと思われます。原文中に何ヶ所か配列番号が記載された箇所があるのですが、”SEQ ID NO:X”はありませんでした。

また、仮に”SEQ ID NO:X”があるとしても、そもそもシグナルペプチドが異なる2つのワクチンが同じ配列になることはあり得ないでしょう。

 

明細書のポイント(1)prMEと配列相同性

ここまでで、明細書の概略を説明してきました。

2点ほど、ここはきちんと理解しておくべきだと思った点がありましたので、最後にそのポイントを取り上げます。

まずは、なぜ「prMEタンパク質を使うのか」がわかる記載からです。

 

Within the Zika family, there is a high level of homology within the prME sequence (>90%) across all strains so far isolated. The high degree of homology is also preserved when comparing the original isolates from 1947 to the more contemporary strains circulating in Brazil in 2015, suggesting that there is “drift” occurring from the original isolates. Furthermore, attenuated virus preparations have provided cross- immunization to all other strains tested, including Latin American/Asian, and African.Overall, this data suggests that cross-protection of all Zika strains is possible with a vaccine based on prME. In fact, the prM/M and E proteins of ZIKV have a very high level (99%) of sequence conservation between the currently circulating Asiatic and Brazilian viral strains.

 本開示のZIKV RNAワクチン(例えば、mRNAワクチン)は、ZIKV prMEタンパク質に(フレーム内で)融合したJEVシグナルペプチド(例えば、配列番号18)をコードする。特定のprME配列は、任意のZIKV株、例えば、当該技術分野において周知のZIKV株またはその他本明細書に記載の株、例えば、ブラジル株、ミクロネシア株、またはアフリカ株に由来し得る。ジカファミリー(Zika family)内では、これまでに分離された全ての株にわたって、prME配列内に高レベルの相同性(90%超)が存在する。この高度の相同性は、1947年の最初の分離株と2015年にブラジルで循環したより現代の株とを比較した場合にも保存されており、これは、最初の分離株から「ドリフト」が生じていることを示唆している。さらに、弱毒化ウイルス製剤は、ラテンアメリカ/アジア、およびアフリカの株を含む他の全ての試験した株に対して交叉免疫を与えた。全体として、このデータはprMEベースのワクチンを用いて全てのジカ株(Zika strain)の交叉防御が可能であることを示唆する。実際に、ZIKVのprM/Mタンパク質およびEタンパク質は、現在循環しているアジアウイルス株とブラジルウイルス株の間で、著しく高いレベル(99%)の配列保存性を有する。

配列相同性(sequence homology)とは、複数の塩基配列、アミノ酸配列がどれだけ似ているかを示す指標です。

配列保存性(sequence conservation)は、ある種間(株間など)でどの程度配列が変化せずに保たれているかを表します。

配列の類似度が高いことで、交叉反応(抗体が、特異的に反応する抗原以外の抗原にも反応する)が起こりやすくなります。

ワクチンでいえば、ウイルスA株に反応する抗体を生成するためのワクチンが、A株と類似のB株に対しても反応して免疫応答を引き起こすことができる、ということになります。

prMEタンパク質は株間で類似しているので、これを抗原として用いれば、複数のジカウイルス株に対して作用するワクチンの作製が可能になるため採用されたのだと推察されます。

 

この箇所で、翻訳する上で気になったのは”Zika family”と”Zika strain”です。

それぞれ、本来はZika virus familyとZika virus strainと思われます。英語では使用例も多いのですが、日本語ではジカファミリー、ジカ株とは通常は言わないようですし、違和感があります。

そのため、ここでは原文を併記しました。

ここに限らず、そしてこの明細書に限らずですが、「(発明者からしたら)自明の省略」にどのように対応するかはなかなか悩ましいところです(ケースバイケースですね)。

 

明細書のポイント(2)vaccine efficacyとvaccine effectiveness

vaccine efficacyとvaccine effectivenessという、似たような言葉が出てきます。

両者の違いをざっくり説明すると、次のようになります。

vaccine efficacy(ワクチン有効率)

  • ワクチンを接種せずに感染した人が、接種した場合に感染を防げた割合
  • 臨床試験によって得られる数値

vaccine effectiveness(ワクチン有効性)

  • ワクチン接種有無以外の因子も考慮した、実際の社会の中でワクチン接種によって感染を防止できる程度を示したもの

参考資料:

例えばワクチンの有効率が80%というのは、「ワクチンを接種したら100人中80人が感染を防げた」わけではなく、「ワクチンを接種せずに感染した100人のうちの80人は、もし接種していたら感染を防げた」ことを指します。なかなか混乱する概念ですね。

それに、efficacyもeffectivenessも、どちらも「有効性」と訳されていたりもするので、上記のどちらを指しているのかを理解しておくことも大切ですね(ちなみにAI翻訳はこの辺、さすがに無頓着です。毎回不統一な訳語を出力してきます)。

 

明細書では、次のように記載されています。

Vaccine efficacy may be expressed as a proportionate reduction in disease attack rate (AR) between the unvaccinated (ARU) and vaccinated (ARV) study cohorts and can be calculated from the relative risk (RR) of disease among the vaccinated group with use of the following formulas:
Efficacy = (ARU – ARV)/ARU x 100; and
Efficacy = (1-RR) x 100.
Likewise, vaccine effectiveness may be assessed using standard analyses (see, e.g., Weinberg et al., J Infect Dis. 2010 Jun 1 ;201(11): 1607-10). Vaccine effectiveness is an assessment of how a vaccine (which may have already proven to have high vaccine efficacy) reduces disease in a population. This measure can assess the net balance of benefits and adverse effects of a vaccination program, not just the vaccine itself, under natural field conditions rather than in a controlled clinical trial. Vaccine effectiveness is proportional to vaccine efficacy (potency) but is also affected by how well target groups in the population are immunized, as well as by other non-vaccine-related factors that influence the ‘real- world’ outcomes of hospitalizations, ambulatory visits, or costs.

 ワクチン有効率は、ワクチン非接種(ARU)試験コホートとワクチン接種(ARV)試験コホート間の疾患罹患率(AR)の比例的低下として示すことができ、次の式:有効率=(ARU-ARV)/ARU×100、および有効率=(1-RR)×100を使用して、ワクチン接種群間の疾患の相対危険(RR)から算出することができる。
 同様に、ワクチン有効性は、標準的な分析法を用いて評価することができる(例えば、Weinberg et al.,J Infect Dis.2010 Jun 1;201(11):1607-10を参照のこと)。ワクチン有効性は、(高いワクチン有効率を有すると既に証明されている可能性のある)ワクチンが、母集団においていかに疾患を減少させるかを評価するものである。この基準は、対照臨床試験内ではなく自然なフィールド条件下で、ワクチン自体のみならず、ワクチンプログラムの利益と悪影響の正味のバランスを評価することができる。ワクチン有効性は、ワクチン有効率(効力)に比例するが、母集団中の標的集団がいかに良好に免疫されたかによって、加えて、入院、外来受診またはコストの「実際の」結果に影響を与える他の非ワクチン関連因子によっても影響される

気になった点を2点挙げます。

(1)unvaccinated (ARU) and vaccinated (ARV) study cohorts

Vaccine efficacy may be expressed as a proportionate reduction in disease attack rate (AR) between the unvaccinated (ARU) and vaccinated (ARV) study cohorts ~

ワクチン有効率は、ワクチン非接種(ARU)試験コホートとワクチン接種(ARV)試験コホート間の疾患罹患率(AR)の比例的低下として示すことができ、~

ARUとARVはそれぞれ”attack rate of unvaccinated”と”attack rate of vaccinated”の略なので、本来であればワクチン非接種者の罹患率(ARU)とワクチン接種者の罹患率(ARV)になります。

その次に式でEfficacy = (ARU – ARV)/ARU x 100と出てくるので、やはり「罹患率」を入れないと不自然です。

ここは「原文通り」として式との矛盾をコメントすることにします。

 

(2)outcomes of hospitalizations, ambulatory visits, or costs

Vaccine effectiveness is proportional to vaccine efficacy (potency) but is also affected by how well target groups in the population are immunized, as well as by other non-vaccine-related factors that influence the ‘real- world’ outcomes of hospitalizations, ambulatory visits, or costs.

ワクチン有効性は、ワクチン有効率(効力)に比例するが、母集団中の標的集団がいかに良好に免疫されたかによって、加えて、入院、外来受診またはコストの「実際の」結果に影響を与える他の非ワクチン関連因子によっても影響される。

ここの最後の「cost」は、当初とても唐突に感じました。入院と外来受診の結果、はわかりますがコスト(費用)の結果が何を指しているのかがピンと来なかったからです。

ただ、ワクチン有効性に関する資料を見ていくと、「ワクチンの経済的評価」に関する話題が出てきます。

例えば、WHOの資料を引用します。

(https://www.who.int/influenza_vaccines_plan/resources/Session4_VEfficacy_VEffectiveness.PDF?ua=1)

disease burden(疾病負荷:疾病により失われた生命や生活の質の総合計)とワクチンのコストのバランスが、どのワクチンを優先的に開発するかの指標になります。

確かに、ワクチンの需要が高い疾患であったとしても、いざ開発してみたらコストがかかりすぎるようであれば広くワクチンが行き渡らないことになりますし、ワクチンの有効性を低下させる因子となると理解できます。

そういう背景があって、明細書には”cost”を有効性に影響を与える因子として含めているのだろう、と理解しました。

 

まとめ

この明細書でのポイントは、

  • 日本脳炎ウイルスのシグナルペプチドを融合させたタンパク質を体内で産生させることによって、有効率・有効性の高いワクチンを提供できる

ということでした。

そして、ワクチンの開発には、下記が重要であることがわかりました。

  • 抗原特異性と交叉反応性
  • ワクチン有効率と有効性

 

新型コロナウイルスも、「普通の風邪のウイルス」との交叉反応性が話題になっています。

ジカウイルスも2020年8月現在、まだ開発途上にあります。

mRNAワクチンは果たしてワクチンとして承認されるのか、今後も注目ですね。

 

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