メディカル学習帳

CTO(慢性完全閉塞)の治療はなぜ難しいのか

現在、狭心症や心筋梗塞に対しては胸を切らずに治療できる、

経皮的冠動脈形成術(PCIまたはPTCA)という手技が広く採用されています。

従来のバイパス移植術に比べると患者の負担が軽く、安全性も高いためです。

 

ただ、PCI手術の中にも症例によってその難易度は異なります。

CTO(慢性完全閉塞)という疾患は特に難易度が高いと言われています。

今日はCTOとは何か、なぜ難易度が高いのか、

そしてこの疾患に対する日本や中国の取り組みをご紹介します。

 

経皮的冠動脈形成術(PCIまたはPTCA) とは?

まずは経皮的冠動脈形成術について少し説明します。

経皮的冠動脈形成術は冠動脈インターベンション、または英文の略称からPCI、PTCAと呼ばれることもあります。

血管が狭まっている、あるいは完全に閉塞している箇所を押し広げ血流を回復させる、「血行再建術」のひとつです。

次のようにバルーンカテーテルという器具で血管を広げ、広げた血管内にステントという金網状の支えを留置する手術です。

(出典:榊原病院

 

PCIはその緊急度によって成功率が大きく変わります。

急性心筋梗塞など、完全に血管が閉塞している場合は閉塞後20分程度から心筋の壊死が始まってしまいます。

この疾患に対するPCIは緊急PCIといい、時間との勝負なので成功率も低くなります。

血流が完全には閉塞していない場合、酸素が供給されているということになりますのですぐに壊死することはなく、緊急度は低く、そのため成功率は高くなります。

こちらは待機的PCIと呼ばれます。

宮崎県立延岡病院の資料によりますと、緊急PCIの場合の入院中死亡率は約5%、待機的PCIの死亡件数は2013年から2016年の4年間、ゼロ件です。

 

この待機的PCIも、実は血管の詰まり具合によって成功率が大きく変わります。

冒頭でお伝えしたCTO(慢性完全閉塞)である場合、成功率がぐっと下がります。

例えば倉敷中央病院のデータによりますと、CTOでない場合は成功率は約97~98%ですが、CTOの場合は85~88%程度にまで下がっています。

 

では、CTO(慢性完全閉塞)とはどのような状態なのでしょうか。

そしてなぜ成功率が低い、つまり難易度が高いのでしょうか。

CTO(慢性完全閉塞)とは?

CTOはChronic Total Occlusionの略で、日本語では慢性完全閉塞といいます。

3ヶ月以上にわたって冠動脈が閉塞している病変のことを指します。

長期にわたって閉塞してしまった血管は、周囲の組織によって取り込まれることで硬くなり、血管がどのように通っているかがわかりにくい状況になります。

 

通常、PCIは造影剤を血管に通し、血管走行とガイドワイヤの進み具合を動画でリアルタイムで確認しながら進めていきます。

下記の黄色の矢印部分が慢性完全閉塞で閉塞している部分になるのですが、その先がどうなっているのか、判別がつきませんよね。

(出典:innervision

 

判別がつかないと、どうなるのでしょうか。

私たちがバッグの中の必要なものを手探りで探し出すように、

そこには医師の経験に基づく判断力が求められます。

つまり、血管はこう流れているだろう、と推測してガイドワイヤを通していくのです。

 

うまくいけば、下の図の左側のような慢性閉塞病変の閉塞が解除され、右のように血管走行の状態が血管造影の画像にも反映され、正常に血液が流れていることがわかります。

(出典:日本医療機器テクノロジー協会資料

 

もし、ガイドワイヤを誤って通すべきでない部位に通してしまうと、血管を傷つけてしまう可能性があります。

血管は内膜、外膜、両者の中間の組織の中膜によって構成され、内膜が血液の通り道(真腔)になります。

内膜は下記の図でいうと、ピンク色の部分です。

(出典:心カテブートキャンプ

この部分にガイドワイヤを通すには、1mm以下のずれを修正しながら進めなければならず、まさに職人芸の領域です。

慢性完全閉塞を起こしている病変は硬くなっているので、そもそもガイドワイヤが通りにくい状況になっています。

患者ひとりひとりの状況を見極めながら、逆方向からガイドワイヤを挿入したり、側副血行路と呼ばれる脇道から挿入したり、より安全で確実なルートを選択する必要があります。

 

診断装置も進化しており、より高解像度の画像によって医師の手技をサポートできるようになっています。

それでも、CTOは医師の経験による判断力に頼るところが大きく、それが手術の難易度に直結していると考えられます。

日本のCTOにおける優位性は?

「職人芸」でもあるCTO治療は、日本でも執刀可能な医師が限られています。

最近話題の中国の日本への医療ツーリズムでも、がんに次いで、心疾患で来日する方は多くいます。

PCIそのものは中国でも広く採用されていて、CTOに対する治療も行われています。

ただ、現地の2016年の資料ではCTOの成功率は40~60%と記載されていました。(出典は中国の医学雑誌のweb記事より)

日本ではおよそ85%程度です。

数字上は、日本の医療技術に優位性があるといえますね。

データを探しきれていませんが、この成功率の違いから心疾患で来日される方の中にはCTO治療のために来られる方が相当数いることが推測されます。

 

それでは、今後も日本は中国に対してCTO治療での優位性を保つことができるのでしょうか。

私の考えは、「日本の技術はもっと高くなるだろうが、それ以上のスピードで中国の技術も急成長していくだろう」です。

 

少し前の(2014年頃)の記事ですが、CTO治療の第一人者である山根先生のインタビュー記事はとても示唆に富むものでした。

ご自身はアメリカや日本で実地でPCI、CTOの手技を学び、研究会などに積極的に参加して手技を磨かれました。

そして現在は後身の育成に尽力し、手術のライブ配信などを通じて、不測の事態が起こった時にどうするかも含めてすべて見せることで技術の継承に取り組まれています。

 

私はこれまで、手術は文字通り医師の「腕の見せ所」なのであまり公開したくないのでは?と思っていました。

CTOに限らないとは思いますが、このように失敗も含めてすべて共有し、そこから皆で学び、技術を改善していこうという姿勢が、医療技術の向上に不可欠なのだろうと感じました。

 

そして、山根先生をはじめ、多くの日本の医師が中国など海外で技術指導を行っています。

その中の一人の斉藤先生はご自身のブログで、中国は慢性完全閉塞手技のライブ配信を積極的に行っており、日本は遅れを取っている、と危惧されています。

私も以前中国にいたので実感がありますが、中国の成長スピード、新しいことを吸収しようという意欲は日本人とは比較にならないと感じることが多々ありました。

数年後には、中国のCTO技術も日本と同水準にまで高まっているかもしれません。

 

まとめ

CTO(慢性完全閉塞)は、3ヶ月以上にわたって血管が閉塞することで、血管走行が不明瞭になっている状態です。

そのため、ガイドワイヤを通すのに医師の熟練したスキルが必要となります。

現在でも、CTOに対する手術成功率は非CTOと比較して低く、CTO治療に熟練した医師の養成が求められています。

今度技術の伝達や共有が進み、さらに成功率が高まることを期待しましょう。

 

PCI(PTCA)については、こちらの記事もどうぞ。

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