翻訳者になるまでの記録

セミコンジャパン2019参加メモ:ストレスを評価するマイクロ流体チップに注目!

行ってきましたセミコンジャパン2019!

写真を撮るのを忘れてしまい、全く「行った」感が伝わらないのですが・・・

セミコンジャパン全体の所感と、注目していた「マイクロ流体デバイス」についてメモしておきます。

 

全体の所感

3日間の最終日の午後行ったので、思ったよりも空いていて、ゆっくり見ることができました。

ただ、逆に最終日の午後は既に撤収していたり、撤収作業を始めているブースもあるので見たいブースには早めに行く必要がありますね。

 

展示会の醍醐味といえば、やはり「実物を見ることができる」ことですね。

前工程・後工程+総合ゾーン(前工程の方が圧倒的にブースが多いです)それぞれに分かれて製造装置、検査装置、そしてその部品・材料が展示されていました。

 

ウェハも初めて間近で見ました。画面で見るより、輝いてました。

ウェハを置き様々な角度に傾斜・旋回することで傷がないかチェックする目視検査用のステージの展示もありましたが、確かに角度で見え方が変わるな、と実感できました。

こんな感じの装置です。

芝浦メカトロニクス株式会社、写真は当日配布のパンフレットより。

 

なぜか3Dプリンタを展示しているブース(ホッティーポリマー株式会社)があり、「3Dプリンタの部品を半導体技術で作るから?」と思い話しかけてみました。

すると製品の試作用途として、FDM方式の3Dプリンタを展示しているということがわかりました。

FDM(熱溶解積層法)は光造形法などと異なり、精度が出ない分コストを抑えることができます。この会社では、独自のフィラメントを採用し、従来のFDMより高精度の製品の製作が可能となっています。

3Dプリンタで作製されたモデルもいくつか置いてあり、触感や精度(凸凹感)を体感することができました。

 

3Dプリンタも、今血管モデルの対訳学習をやっているからこそ目についたものです。今の興味や持っている知識量によって、見るもの・見るポイントが変わるのを実感しました。

今回私が見たいと思っていたものは、半導体製造プロセスそのものよりも、メディカル・バイオ系へ応用したアプリケーションで、特に「マイクロ流路チップ」でした。

次に、面白いなと思った「マイクロ流路チップを用いたバイオマーカー」について紹介します。

 

ストレスを定量的に計測できるバイオマーカー

「マイクロ流路チップを用いたバイオマーカー」で今回とても気になったものは、大阪大学が研究中のバイオマーカーでした。

「涙液中のミトコンドリアDNAの量を計測し、多ければ高ストレス状態と判断する」ものです。

なぜミトコンドリアDNAの量でストレスの度合いがわかるんだろう?

なぜそれをバイオマーカーとして使うのだろう?

いろいろ疑問が湧いてきますが、まずはマイクロ流体デバイスやマイクロ流路チップと呼ばれるものがどういうものか、すこしまとめます。

 

マイクロ流路チップとは

マイクロ流路チップとは、「目的の検査・分析に必要な処置が手のひらサイズのデバイス上で行われる」デバイスのことを指します。

下記の図はバイオセンサー用途ではありませんが、「実験室の様々な装置を使用して行う」操作が、「チップ上に集積されている」ことがわかりやすいと思います。

右下の写真が、マイクロ流路チップです。

(出典:http://www.nr.titech.ac.jp/~ptsuka/research-micro.html)

 

これらのマイクロ流体デバイスが重宝される理由は主に2つあると考えられます。

  1. コンパクトであることから、携帯型検査デバイスに最適
  2. 反応速度が速いため、検査結果をすぐ得ることができる

(1)についてはそのままなのですが、(2)についてはマイクロスケールの流路にすることで、単位体積当たりの界面の割合(比界面積)が大きくなるため、界面での反応速度が進むからですね。

 

このあたりの資料を読んでいて、だいぶ昔に書いたナノ粒子の物性についての記事を思い出しました。

粉塵爆発はなぜ起こりやすい?という話で、同じく粒子の比表面積が増えるため、反応が起こりやすいという理由でした。

マイクロ流体デバイスでは比界面積だけではなく、狭い空間のため拡散が早い、温度変化に必要な熱容量が小さいなどの特徴があります。

興味のある方はどうぞ。

小さなナノ粒子の大きな特徴:比表面積と反応性「ナノ」って言葉を聞いて、どんなイメージを思い浮かべますか。 たぶん、「なにかとっても小さい」ものが頭に浮かんだのではないでしょうか。...

 

 

これらのマイクロ流体デバイスを作製するために、微細加工技術が必要になるというわけですね。

(出典:https://www.enplas.co.jp/business/bio/)

 

検査・分析装置としては再現性の高さは必要な要素です。

特許明細書を見ても、再現性を高めるために流路の配置を工夫したり、逆流などの予期せぬ自体が起きないためへの工夫がされていることがわかりました。

 

展示品の明細書を読んでみる

さて、今回の展示品の話に戻ります。

「涙液中のミトコンドリアDNAの量を計測し、多ければ高ストレス状態と判断する」マイクロ流体チップでした。

大阪大学のHPを見てもちょうどよい資料がなく、下記は少し見づらいと思いますが、当日配布のパンフレットからの資料です。

Electrode Plateに試料を載せて、その下部のHeaterによって熱を制御して、PCR法でDNA増幅を行い、増幅で得られたDNAの量を分析する、という一連の操作がこのチップ上で行われます。

 

当時会場でチップの実物を見ながら、おおよその原理を説明して頂きました。

帰ってから、「もしかしたら特許出てるんじゃ」と思い検索したらやっぱりありました。

明細書は下記の通りですが、明細書の内容はあくまでも「ミトコンドリアDNAを用いたストレスバイオマーカー及びそのキット」であって、そのキットが展示品のようなマイクロ流体デバイスを形成するとまでは限定されていませんでした。

WO2017/170572

発明の名称:ストレスバイオマーカー

出願人:国立大学法人大阪大学

目的として「ストレス状態を簡便かつ正確に評価することができる新たなストレスバイオマーカーを提供すること」とあります。

 

以前から、末梢血由来のmRNAなどを利用したバイオセンサーはあったのですが、本発明はサンプルに涙液など複数種類の体液を用いることができるため、より簡便に行えるところに従来技術との違いがあります。

また、ミトコンドリアDNAを利用したバイオマーカーもこれまでありませんでした。

 

ミトコンドリアDNAとは、その名の通りミトコンドリア中に存在しているDNAです。

ストレス状態にある場合、ない場合と比較して生体体液中のミトコンドリアDNA量が有意に上昇することを利用し、ミトコンドリアDNA量をバイオマーカーとしたストレスバイオマーカーが発明されました。

なぜストレス状態にあるとミトコンドリアDNA量が増えるのかについては記載がありません。

 

2つの実験例によって次の結果が得られています。

(1)1名の眼科医の診察開始時、終了時のミトコンドリアDNAの濃度を15日間比較、診察終了時に有意に上昇することを確認した。

(2)病院での日勤者と夜勤者複数の勤務前後のミトコンドリアDNA濃度を比較。日勤前後では有意な差は認められず、夜勤前後では有意な差が認められた。夜勤の方がストレスは高いのでバイオマーカーとして利用することができる。

 

このミトコンドリアDNAによるストレスバイオマーカーは、配布資料によりますと「自宅で一般の方がストレスチェックできる」ことを目標に、開発が進められています。

このバイオマーカーでは、自分がいつもよりストレスを受けているかどうかの状態チェックの他に、そもそも自分がストレスを受けやすい人であるか(ストレス性疾患に罹患しやすいかどうか)もわかります。

このストレスバイオマーカーの普及が実現すれば、自分のストレス具合が数値で把握できますね。

またストレスが多大な影響を与える仕事では、重大ミスの予防のため「ストレス値○○以上の場合は業務禁止」などといったルールが生まれるかもしれません。

 

まとめ

セミコンジャパンに行きながら、私が注目していたのはバイオメディカル用途のマイクロ流体デバイスでした。

このほか、物質表面の微細な凸凹をデジタル化して電気信号に変える「ナノ触覚センサ」(触覚を持ったロボットアーム・内視鏡の鉗子などに応用が期待される)など、興味深い製品もありました。

 

それだけ、半導体の世界は幅広いということですね。

また、もし去年セミコンジャパンに行っていても注目していなかったであろうポイントに注目したのは、それだけ私の「半導体周り」の世界が変わったからでもあります。

来年は何を見て、どんな記事を書いているのか、楽しみです。