特許を読み解く

発明の「キモ」を見抜くって簡単じゃない

合わないピースを無理やりはめる

昨日の記事にて、先週から対訳学習をしている明細書について、

「結局これってどこが肝なの?」の答えが断片的で

ストーリーとして繋がってない、と書きました。

 

昨日、再度図解化しながら追いかけて行ってようやくわかりました。

その理由が。

完成したように見えたジグソーパズル、

よく見ると違うピースが無理やりはめ込まれてました。

致命的な誤訳をしている箇所があることに、

図解化している時にようやく気付いたのです。

結局この特許って何がすごいの?

まずは、今回の特許明細書の内容について、従来技術との比較をもとに説明します。

 

半導体の成膜工程に関する特許明細書です。

下の左側の図が、簡略化した基板の断面図です。

黄色の部分には銅などの金属が埋め込まれているため

次に青色の第2絶縁層を形成するまでの間に、どうしても表面が酸化してしまいます。

図で言うと、ピンクの部分です。

酸化したまま次の絶縁層を形成してしまうと、

その部分の密着性が悪くなり、デバイス全体の性能に影響します。

 

銅などの金属を埋め込んでから、次に絶縁層を形成するまでの間で

表面が酸化してしまうことはどうしても避けられません。

とすると、酸化したものを除去して再び酸化する前に、

次の層を形成すればよいわけです。

 

イメージ的には、スマホの画面保護フィルムを貼るような感じでしょうか。

まず表面のゴミや汚れを無くして、きれいになったところですかさず貼り付け。

ゴミや油汚れが残っていると、そこが浮いてきたり、剥がれたりしますよね。

 

では、どのように酸化膜を除去するんでしょうか。

 

以前は、スパッタリングという方法が使われていました。

スパッタリングとは、本来は成膜方法の一種として使用されます。

膜にした材料(ターゲット)に向かってイオン化した不活性ガスが勢いよくぶつかり、

衝撃でターゲットが削られ、上部に配置したウエハにその粒子が付着する、

というしくみです。何とも物理的!

この仕組みを応用して、酸化膜を除去します。

ちょっと見づらいのですが、ウエハを置く側を負極にしてイオンを衝突させ、

その勢いで表面の酸化膜を削ってしまえ、という寸法です。

このスパッタリングによる酸化膜除去には、問題がありました。

イオンが勢いよく衝突しすぎて、

酸化膜だけではなくその下の金属まで削ってしまうのです。

削られた金属はチャンバ(加工装置)内を漂い、この次に形成される

絶縁層に金属粒子が紛れ込んでしまいます。

絶縁層に導電性の金属粒子が混じってしまうと、トランジスタが正常に

作用しなくなるので、避けなくてはなりません。

 

そこで、物理的ではなくもっとケミカルな方法が取られるようになりました。

プラズマを利用して、化学反応を起こして表面の酸化膜を除去する方法です。

 

チャンバ内に水素やアンモニアなどの水素ベースのガスを吹き込み、

電極に電圧を印加して、プラズマにします。

すると、酸化膜の表面で化学反応が起き、金属(ここでは銅とします)が還元され、

副生物として水や水酸化物が発生しますので、これを装置から排出し、

一旦プラズマを消滅させます。

ここからはきれいになった表面に、絶縁膜(窒化膜)を形成する工程です。

シラン、アンモニア、窒素の混合ガスを導入し、同様にプラズマ化することで

窒化膜が出来上がります。

これでめでたしめでたし…なら良いのですが、

出来上がった窒化膜にはいくつかの問題がありました。

チャンバ内に残っている水や水酸化物とシランが反応をして粘度の低い膜となること、

プラズマを消滅させた時に銅とシランが熱で反応して銅シリサイドが形成されること、で

これらは膜の密着性を弱めます。

 

従来技術の抱えていた、膜の密着性を改善する方法が今回の発明となります。

従来技術と同じようにプラズマを利用しますが、ガスの種類の違い、そして

酸化膜除去から窒化膜形成までを連続して行うことに違いがあります。

 

先ほどは水素かアンモニアかでしたが

今回はアンモニアガスを導入してプラズマ化し、酸化膜を除去します。

引き続いて、シランガスを導入しプラズマ化します。

*下の図でははじめのアンモニアプラズマも残っているように書いていますが、

今思うとこれは不正確かもしれません。窒化膜を形成する関係上、

窒素由来のプラズマは残っていても、水素は酸化物と反応しきってしまい

この時点ではすでになくなっているかもしれません。

ともあれ、この方法ですと銅の表面の酸化物を除去して、

密着性の良い絶縁膜(窒化膜)をその上に形成できます。

 

なので、

  • アンモニアガスを酸化膜除去に用いること
  • その後連続してシランガスを導入し、窒化膜を形成すること

この2点によって本発明では、従来の方法の欠点を克服し、

酸化膜を確実に除去し密着性の良い絶縁膜を形成できるということですね。

 

ただ、上記は従来との違いからまとめただけで、

本当のこの発明の肝ってなんなの?というところまではたどり着けていません。

 

そして肝心の、どこをどう誤訳していたのかも明日に回します。

答えはCMの後で!みたいなことになってますね・・・

学習記録

10/2(火)の学習記録

項目: 対訳学習のまとめ+Multiterm登録など
目標: 6h50m  実績:6h30m

10/3(水)の学習計画

項目: ミス分析・防止策+次の対訳の素材を決める
目標: 6h50m  
メモ: 今度はあまり学習していない半導体から少しずれた分野で
    (MEMSor太陽電池orFPDあたり)、
        対訳収集からはじめる予定です。