特許を読み解く

特許明細書から、生体吸収性ステントの課題を考える

体内に挿入・留置する装置には生体が異物と認めて拒絶反応を示さない、生体適合性が求められます。

さらに、手術の縫合糸や骨折の固定など一時的な固定に用いる物質については、その役目を終えた後に消失する物質であれば、再手術をして取り出す手間がなくなります。

そのような物質は生体吸収性、または生分解性物質と呼ばれ、特に加水分解等で容易に分解が進むことから、ポリ乳酸(PLA)などのポリマーが生体吸収性ポリマーとして広く用いられています。

ただし、従来の物質と比較した場合、生体吸収性物質には弱点となる物性も存在します。

今回は医療用器具のひとつ、ステントを取り上げて生体吸収性物質を使用することによるメリットと、現状の課題について、特許明細書から読み取った内容をもとにまとめます。

 

生体吸収性ステントが求められる理由

ステントは血管や消化管などの管腔の狭窄を改善するために留置される、網状の円筒状の物質です。

当初はベアメタルステント(BMS)という、表面に何も塗布されていない金属ステントが主流でした。

BMSは留置後、ステント内側に新生内膜が増殖することで管腔が再度狭くなる再狭窄が問題でした(冠動脈用ステントで、約3~4割の患者に再狭窄が生じています)。

この再狭窄を防止するために、表面に新生内膜の増殖を防止する薬剤を塗布した薬剤溶出ステント(DES)が登場し、現在でもDESがステントの主流になっています。

 

BMSには「ステント血栓症」という問題もありました。

これは、体内にとって異物である金属ステントに対して血小板が作用し、ステント内に血栓が形成され、管腔を塞いでしまうという症状です。

DESは、ステント血栓症の発生を抑えることもできますが、完全ではありません。

 

体内に異物が残存し続けるため、DESであってもステント血栓症のリスクは残りますし、消化管などでは蠕動運動によりステントが移動するなどのリスクも残ります。

そのため、一定期間で体内で分解される生体吸収性ステントが求められています。

 

生体吸収性ステントの課題:機械的性質面

生体吸収性ポリマーを使用するステントに関する明細書で見られた課題の多くは、生体吸収性ポリマーを使用しつつ、ステントとして求められる物性を担保する方法についてでした。

ステントは、次のようなデリバリーシステムと呼ばれる器具に収納され、病変部位で展開されます。

(出典:ウィングスパン ステントの添付文書

 

ステントには、カテーテルに付属したバルーンによって拡張する方法と、ステント自体の拡張性によって拡張する2つの方法があります(上記の図は自己拡張性のステントになります)。

バルーンによる拡張は術者の技量が求められ、また長い狭窄や屈曲部位の狭窄への適用が困難であることから、屈曲部位の多い管腔では自己拡張性が求められます。

また、屈曲部位で曲げた場合、まっすぐに戻ろうとする力が強すぎるとその力(アキシャルフォース)によって消化管などの管腔に穿孔のリスクが生じます。

 

アキシャルフォースの強弱については、下記のページの動画が参考になります(3.腸管への負荷の部分です)。

このページにはその他にもステントの柔軟性やデリバリー後の展開のイメージなどが確認できる画像・動画が豊富なので、とても参考になりました。

WallFlexTM Colonic StentとNiti-S大腸用ステントの違いについて

 

明細書をいくつか読み、機械的な物性としては通常求められる耐久性のほか、以下の点が重要であると感じました。

  • 留置部へデリバリーしやすい形状(細径であれば、患者への負担も少ない)
  • 十分な拡張性
  • 穿孔リスク低減のための最適なアキシャルフォースの実現

これらの課題を克服するために、コイル状のステントの編み方に工夫を凝らした明細書がいくつかありました。

 

その中の1件を簡単ですが紹介します。

特開2019-103667

【発明の名称】生体吸収性ステント及びそれを含む医療機器

【出願人】日本毛織株式会社・EAファーマ株式会社

本発明の課題は、

「生体吸収性があり、自己拡張性が高く、かつ自己拡張した後に曲げた状態で形状維持が可能である生体吸収性ステント及び医療機器の提供」です。

生体吸収性物質としては、通常生体吸収性ステントに使用される種類の生体吸収性ポリマー(ポリグリコール酸、ポリL乳酸、ポリR乳酸、ポリカプロラクトンなど)を使用しています。

 

本発明のポイントは、経糸(軸方向)に2種類の生体吸収性を有する糸を組み込み、一方は弾性糸でもう一方は非弾性糸であることです。

下記のように、弾性糸(赤色)と非弾性糸(青色)を組み込みます。長さはどちらもステントの軸方向の長さより長いため、伸ばした状態では糸はたわんだ状態で、ステントの形状に影響しません。

このような構造のステントを曲げると、曲がったままの状態で形状維持が可能です。

これにより、管腔の動きに追従でき、穿孔などのリスクを軽減することができます。

 

この明細書について、詳細と従来技術との違いを以下にまとめました(クリックで拡大します)。

 

生体吸収性ステントの課題:化学的性質面

生体吸収性ステントの材質としては、主に生体吸収性ポリマーが用いられています。

生体吸収性ポリマーが、従来の金属ステントで用いられていた金属と同等の強度を持つことは困難です。

そのため、マグネシウム合金を使用した生体吸収性ステントの研究も進められています。

 

マグネシウムは比強度が高く軽いため、また体内に存在する元素であることから安全性が高いため、ステント用生体吸収性材料として注目されています。

ただし、マグネシウム自体は安全性が高くても、合金として添加された元素には注意が必要となります。

というのも、マグネシウムとイオン化傾向の著しく異なる元素を添加した場合、電位差により電池が形成された状態になることから、電流が流れ、腐食(ガルバニック腐食)するからです。

 

同様の現象が、X線検知用のマーカーとして埋め込んだ金属との間にも起こりえます。

X線透過性(X線画像上に映らない)材質で作成したステントの留置状況をCT等で確認するために、ステントにX線非透過性の金属を添加することがあります。

X線透過性の金属としてイオン化傾向の小さな金、白金が用いられることがありますが、ステントの材料としてマグネシウムを用いた場合、イオン化傾向の大きいマグネシウムとの間で腐食が生じることになります。

下記は金属の電位差の表となります。

金とマグネシウムとの間には大きな電位差があることがわかります。

(出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/62/4/62_4_204/_pdf)

 

対応策としては、マーカーとなる金属の配置を工夫し腐食を防止するなどが挙げられます(例えば、特開2018-121936)。

 

まとめ

今回は1件の明細書をその先行技術とともに深めに、そして最新の明細書から課題と解決方法のみピックアップして読みました。

そのため、生体吸収性ステントの課題の全ては網羅されていないとは思いますが、おおよその開発動向と現状の課題を把握することができました。

まとめますと、次の通りになります。

機械的性質面:拡張性、耐久性など

化学的性質面:生体吸収性金属を用いる場合の腐食現象への対応

下記は、直近の明細書の課題のまとめです。

 

ステントなどの医療用途に限らず、環境用途などでも今後生体吸収性材料を使用した製品は増加するのではないかと思われます。

今後の動向にも注目していきます。

 

 

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