バイオ・医薬

infusion reaction と抗がん剤による過敏症の違い

こんにちは。

今日も今日とて、添付文書を読んでいたときのちょっとした気づきをお話します。

 

いきなりですが、添付文書から引用します。

重度のinfusion reactionが発現し、死亡に至る例が報告されている。症状としては、気管支痙攣、蕁麻疹、低血圧、意識消失、ショックがあらわれ、心筋梗塞、心停止も報告されている。

アービタックス(セツキシマブ)添付文書より引用

突如現れるinfusion reaction。

日本語にすれば輸注反応とか注入反応になりますが、あえてのinfusion reaction。

これは何か意味があるに違いない。

 

ということで調べてみました。

 

infusion reactionとは、分子標的薬で見られる副作用のこと

答えはすぐ見つかりました。

infusion reactionは分子標的薬の点滴時に起こる症状で、通常の抗がん剤で起こる過敏症とは区別をする必要があるため、そのままinfusion reaction(インフュージョンリアクション)としているようです。

インフュージョン・リアクションとは、急性輸液反応、注入反応、点滴反応などの意味で分子標的治療薬の点滴時にみられる副作用のことです。いわゆる抗がん剤による過敏症とは異なる特有の症状がみられることから、日本語には訳さず英語読みで表記されます。
主な症状は発熱、寒け、頭痛、発疹、嘔吐、呼吸困難、血圧低下、アナフィラキシーショックなどです。

(https://oncolo.jp/dictionary/infusionreaction より引用)

リツキシマブやトラスツマブなどの抗体医薬品による症状は、一般の抗癌剤に伴う過敏症やショックなどとは区別されており、インフュージョンリアクション(急性輸注反応)と呼ばれています。

(http://www.med.oita-u.ac.jp/yakub/di/qa/20170125/kabinsyoukouganzai201603.pdf より引用)

 

分子標的薬とは抗がん剤の一種で、ある特定の分子のみを攻撃することで従来の抗がん剤のように周囲の正常細胞に影響を及ぼしにくい抗がん剤です。

恐らく発生機序が従来の抗がん剤と違うから、副作用も異なるということでしょう。

では、その発生機序にはどのような違いがあるのでしょうか。

 

infusion reactionと過敏症

通常の抗がん剤による過敏症は、一種のアレルギー反応です。

抗がん剤が体内の免疫機能によって異物認定されて起こる反応です。

即時型の反応が多く、IgE(免疫グロブリンE)という抗体によって引き起こされます。

症状はくしゃみ、咳、熱感、蕁麻疹、掻痒感などですが、呼吸困難・血圧低下などのアナフィラキシーショックが現れることもあります。

 

一方のinfusion reactionの発生機序は、実はまだ明らかになっていません。

医科学出版社の「消化器癌治療の広場」というサイトには、次のように記載されていました。

 IRRの発現機序については詳細については明らかにされていないが、通常の抗癌剤によるアレルギー反応とは別のメカニズムによって生じると考えられている。一般的には、分子標的薬自身とその標的分子や血液中の各種細胞、腫瘍細胞間での相互作用により、サイトカインの放出が惹起されることによる発生機序が考えられており、放出されたサイトカインが全身循環により拡散されるため、特徴的でさまざまな症状が出現する。また、サイトカインの放出量が多い場合には症状が重篤化する。(http://www.gi-cancer.net/gi/fukusayo/fukusayo_07_1.htmlより引用)

サイトカインというのはタンパク質の一種で、細胞間の信号伝達に関係しています。

infusion reactionは抗がん剤による過敏症(アレルギー反応)よりも重篤化することが多いのですが、それがサイトカインの放出量に関係している、ということでしょう。

infusion reactionの症状としては、通常の抗がん剤と同様の発熱、悪寒、皮膚掻痒感などから、重篤化すると気管支痙攣、重度の血圧低下、急性呼吸促進症候群などが生じ、生命に関わる場合があります。

 

infusion reactionはどう訳す?

それでは、翻訳対象文書に「infusion reaction」が出てきたらどうしたらよいのでしょうか。

実際にinfusion reactionを使用している添付文書は、PMDAの医薬品情報検索サイトで検索したところ64件ヒットしました。

ちなみにインフュージョンリアクションではヒットしませんでした。

その他、「輸注反応」「注入反応」などでは少なくともヒットしなかったのですが、「注入時の反応」など違う表現を用いている可能性もあります。

 

やはりそのまま、「infusion reaction」としておくのが無難だと思われます。

 

まとめ

infusion reaction とは、分子標的薬の注入時に起こる反応のことです。

従来の抗がん剤によるアレルギー反応とは異なる機序により発生し、症状も異なることから通常、infusion reactionとそのまま使用されます。

 

翻訳時にも、それが分子標的薬の注入時に起こる反応のことを指しているのであれば、infusion reactionとしておくのが無難だと思われます。

 

「普通に訳せそうな言葉が英語のままになっていたらそこには何かがある」と思って調べてみると、いろんな発見がありますね。