ミス対策

誤訳メモ:訳抜け / AとBとの縮合 (condensation of A and B )

2/7:この枠の部分を追記しています

 

明細書を翻訳していた際のミスを取り上げ、その対策を考えます。

今回も、題材は以前のもの(例えば、明細書の翻訳ミスからpH応答性ミセルの仕組みを説明してみる と同じ、pH応答性ミセルによるDDSです)

 

ミスの概要

請求項からです。

ミセルを構成するポリマー(請求項1)の従属請求項の1つで、さらにポリマーの構造を限定している項です。

ややこしい係り受けがあるわけではなく、「普通に訳していれば」間違えるところではない箇所です。

 

原文

The polymer of claim 1 wherein the hydrazide moieties are formed from the condensation of side chain carboxylate moieties of the second block, hydrazine or hydrazine derivatives, and carbonyl moieties of the therapeutic agents or carbonyl moieties of a linking group on the therapeutic agent.

当初訳

前記ヒドラジド部分が、前記第2のブロックの側鎖のカルボン酸部分治療剤のカルボニル部分又は治療剤の連結基上のカルボニル部分の縮合より形成される、請求項1に記載のポリマー。 

公開訳

前記ヒドラジド部分が、前記第2のブロックの側鎖のカルボン酸部分、ヒドラジンまたはヒドラジン誘導体と前記治療剤のカルボニル部分または前記治療剤上の連結基のカルボニル部分との縮合から形成される、請求項1に記載のポリマー。

この中で、2箇所ミスしています。

(1)side chain carboxylate moieties of the second block, hydrazine or hydrazine derivatives の訳抜け。

本来は、「前記第2のブロックの側鎖のカルボン酸部分、ヒドラジンまたはヒドラジン誘導体」となるべきところ、後ろの2つの要素(ヒドラジンまたはヒドラジン誘導体)が抜けてしまっています。

(2)「前記第2のブロックの構成部分」と「治療剤の構成部分」との縮合であることが明確になっていない。

 

何が起こっているのか、図にするとこんな感じです。

請求項1で述べられているポリマーは、単純化するとこのような構造です。

この請求項では、ポリマーと薬剤の結合について述べています。

 

ポリマーのある部分(ピンク色)と薬剤のある部分(緑色)が縮合によって結合する、そしてそれぞれ結合につかえる部分の名前を列挙しているだけです。

私はピンク部分の2つの要素(図でいうとBとC)を抜かしてしまった上に、「AかBかC」が「DかE」と縮合反応する、ということを具体的にイメージしていませんでした。

2/7追記:

結合部分の官能基の構造と結合方法について、実際の化学式でもう一度説明します。

 

ポリマー側の結合部分は3つ選択肢がありました。

side chain carboxylate moieties of the second block(第2ブロックの側鎖のカルボン酸部分)

hydrazine or hydrazine derivatives (ヒドラジン又はヒドラジン誘導体)

それぞれ図の青い部分です。

 

対する薬剤側は以下の2つです。

下記の図の上がcarbonyl moieties of the therapeutic agents (治療薬のカルボニル部分)

下がcarbonyl moieties of a linking group on the therapeutic agent (治療剤上の連結基のカルボニル部分)ピンク部分が「治療剤上の連結基」です。

 

ポリマー側鎖と薬剤との縮合反応は、ポリマー側の官能基がヒドラジン(またはヒドラジン誘導体)か、カルボン酸かで分かれます。

ヒドラジン(またはヒドラジン誘導体)との結合は下記の通りで、ヒドラゾン結合(=N)により結合します。

 

ポリマー側がカルボン酸であれば、エステル結合します。

 

ミスの原因

どちらも、「訳文が何を指しているのかを明確にイメージできていなかった、全体を見ないで訳していたこと」が根本的な原因だと考えています。

訳抜けについては、秀丸で区切って訳してから、その区切ったまとまりごとに訳抜けがないかを確認せずに各まとまりをつなげてしまっていた・・・というのが原因ですが、「なぜ確認しなかったのか」は、当時の状況が思い出せず、はっきりしたことが言えません。

確認する癖をつけていなかったことと、短い文章なので訳抜けしているはずはないと思い込んでいたことが、確認しなかった理由として挙げられます。

(プリントアウトしてマーカーで消し込む、という作業を行っていれば、さすがにこの訳抜けには気づいたと思います。今回は一文ずつ画面上のみでチェック、比較をしていました)

 

ただ、この訳抜けも、上の図を頭の中でイメージしていたら、つまり「まず文章全体を俯瞰して、どことどこが縮合反応する、縮合する部分の具体的な化合物としてそれぞれ列挙されている」ということがわかっていれば防げたのではないか(違和感に気づいたのではないか)と思います。

 

公開訳と比較したときに、「縮合」を言葉だけで捉えていたことに気づきました。

言葉として、仮に「○と△との縮合」を「○と△の縮合」と書いても間違いとまでは言えないと思います。

ただ、私が当初「~の縮合」と訳出したときは、おそらく「縮合反応=2分子の反応、2つの要素がくっついて新しい要素になる」という感覚を持って訳していませんでした。

 

ミスの対策

下記を実行することで、同様のミスを防ぎます。

  • 何を指している文章なのか、全体を俯瞰する(今回であれば、何と何がどこでくっつくか、上記の図のレベルで)
  • 秀丸上で区切った時は、まず区切った中でチェックしてからつなげる、を徹底する(この工程を含めたチェックリストを作成して、その通りに翻訳を進める)

2/7追記:

どことどこがどのように結合する、というのを化学式レベルで理解していなかったことが原因です。

今回のような反応に関する文章の場合、翻訳前に明細書上の化学式を確認してどこでどのような反応が起こるのかを化学式をコピーし理解した上で翻訳します(翻訳スキームに追加済)。