10月初めから約1ヶ月間、これまでにない短納期の案件に取り組んでいました。
いろいろと気づきがあったのでここにまとめたいと思います。
Contents
概要
- 案件:英日特許翻訳(バイオ系)約7万ワード。
- 納期:約1ヶ月。ただし他案件を抱えていたためこの案件に使える時間は実質25日程度と見込む
同等のボリュームの案件は過去に経験があり、そのときも1ヶ月以内で作業はできたのですが、その案件はかなりスピードが出やすい(繰り返しやファジーマッチが多い)案件でした。
今回、繰り返しやファジーマッチが非常に少なく、それ以外にも「手強い」と判断する要素が多かったため、前回と同じようにはいかないという認識を持っていました。
自分のチェックにかける時間を勘案して、翻訳スケジュールを最初数日3000w/日、その後5000w/日に設定し、これで進めば1、2日はバッファを持てると判断して請けました。
この案件に着手する前の翻訳スピードは、同種の分野であれば初日から2000~2500w程度で、その後3000w台は(途中で苦労しなければ)普通に出るレベルでした(繰り返しが多ければ5000w以上も出ます)。
気づき
その1:納期の恐怖でヒトは限界を突破する
終わってみれば、当初見込んでいた1~2日のバッファよりも若干余裕は出ました。
その余裕がどこから来たかというと、やはり翻訳スピードがこれまでとは段違いだったからです。
ピーク時は5000~7000w/日で推移していました。この期間は1日フルに(正味で14時間ほど)作業していました。睡眠時間は7時間は確保していたので、「寝るか翻訳するか」の生活でした。
スケジュールを立てて、「きついが問題ない」と確認していても、「もしかしたら間に合わないかもしれない」という恐怖はこれまでに感じたことのないほど大きかったです。その恐怖がなければやはりここまで自分を追い込めなかったと思います。
その2:頭の体力も突然電池切れになる
連日7000ワード近くが続いたある日、原文を見ても何も頭に入ってこなくなりました。それほど複雑な文でもないのに、内容もわかっているのに、何度やっても訳文が組み立てられないのです。
焦りました。どうしようもなければ休むなり飛ばすなりすればいいものの、「なぜ??」とパニックになりつつしばらくその文章と格闘していました。
結局冷静になってあとで見直して手直しするという無駄なことをしました。これ以外にも、この事件の前後は判断力がかなり落ちていたと振り返ってみて思います。
このあと体調を崩したのでそれもあったのかもしれませんが、おそらくこのあたりが今の私の「頭の体力」の限界だったのではないかと思います。
こういう状態になったら素直に「電池切れた」と認めて休むしかないでしょうね。今回は限界を知るために無理をしましたが、本来はこの「電池切れリミット」を超える作業をしないで納品できるスケジュールを組んで、進めていくのがよいのだろうと思います。
その3:時間に余裕のないときの訳質にこそ実力がでる
この案件を請けたことで、この案件の前から取りかかっていた案件も計画を前倒しで進める必要がでてきました。
手持ちの案件を早く終わらせないと次の案件に支障が出るため、いつもよりスピードを上げて、そしていつもより落ち着きのない状態で通常通りのチェックをして納品しました。
結果として、納品した案件のフィードバックで普段絶対にやらないようなミスの指摘がありました。明らかに普段とミスのパターンが違うものでした。
なぜこれらのミスが起きたのか。チェックしたものはすべてしばらくとってあるので、さかのぼって原因を調べました。すると、やはりこれまでのチェックスキームの抜けというか、甘いところが見えてきました。
チェックについては(効率化は大きな課題ですが)、ある程度やり方が自分なりに確立されてきて、結果(ミスの少なさ)にも出ていると思っていました。
でも、ちょっと負荷をかけるとこうやってボロがでる。
「これが自分の実力なのだ」と認識して、今一度作業方法を見直す気づきを得られたことは、今回の「試験」での大きな収穫でした。
その4:翻訳中の精度をどこまで上げるか、がすべて
講座でも何度も言われている、プロは「一発で決める」ということ。
これが案件全体の処理スピードを上げるためにも、訳質を上げるためにも本当に本当に大切なことだと改めて実感しました。
今回、やはり納期の恐怖からとにかく進めないとと思い、翻訳中のペンディングが通常よりも多くなりました。必要なペンディングを除いて、「単なる問題解決の先送り」のペンディングは、最終的には自分の首を絞めることになります。
ではなぜペンティングしてしまうのかというと、「今すぐにこの問題を解決できない」と思ってしまうからで、さらにそう思う原因は何かというとやはり「(推測が働かないほど)その部分の知識がないこと」です。
ある程度の推測が働けば、少し検索すれば(推測が正しいか確認すれば)解決できると思えるので、ペンディングすることなくすぐ解決しようとするからです。
昔よくあった「何を言っているのかまったくわからんので後回し」という意味でのペンディングは今ではほぼなくなってきています(○○だから△△と理解したがもしかしたらxxか?再度確認、のような形が多いです)。
ですが、「再度確認」にしてその場で確定できないということは、やはり自分の中で納得して理解できていないということなのでそこを補強していく必要があると考えています。
今回の案件でも、「ここはこの前のあれと同じことを言っているんだな」と思うことや、過去のメモリがヒットするものもありました。逆に、「あそこで出てきたけど、深掘りしなかった。あの時もう少し調べておけば今回苦労しなくてすんだのに」と思ったこともありました。
なので、案件で出てきた「訳せるが背景理解があいまいな部分」からその周りを含めて広く学習していくことで、徐々に一発で自信を持って確定できる範囲が増えてくるのではないかと考えています。
その5:翻訳環境の最適化は翻訳スピードを上げるより大切
ぎりぎりのスケジュールでやっていると、少しでも「予想外」のことが起きればすぐに納期遅れの「危険水域」に達してしまいます。
この期間、絶対地震来るなよ、PC壊れるなよ、誰も私を邪魔するなよと祈っていました。
たいてい、神様はいじわるなのでそういう時に限って何かがあります。なので、私たちは神頼みではなく自分でできる最大限の対策をする必要があります。
確実に、毎日ベストコンディションで作業ができる状態であること。万が一何かあってもすぐリカバリーできること。
これも講座で何度も言われていることですが、この状態を維持することは、1日の処理量を上げるよりも大切だと思います。
これまでももちろん、PCのバックアップなど必要なことはやっていましたが、今回、「翻訳環境」についての意識が一段高まったように思います。具体的には次の通りです。
- 腱鞘炎で全くタイピングできなくなることを防ぐために音声入力その他ツールの可能性を探る
- 自分の体の変化に敏感になる(風邪の引き始めで防ぐため、咳が一回でも出たら葛根湯を飲んで水分補給しつつ長めに寝る)
- 信頼できるメモリ・用語集は貴重な資産だがその逆はゴミでしかない。毎回の案件で、次に有用な資産として使える形でメモリ・用語集を整備する
- 「災害リスクが少ないこと」を移住先の最優先事項とする(移住先をゼロベースで考え直す)
これまでの案件では、何だかんだ「少し余裕があるからトラブっても大丈夫」という気持ちがあったように思います。
今回の「リカバリー不能なトラブル=即死」の案件を経験して、今までの危機管理はまだまだプロとしては甘ちゃんだったことに気づかされました。
まとめ
今回上に挙げたようにさまざまなことを学びました。
おそらく筋のいい人は、他人の失敗から学んだり自身のこれまでの経験から推測して、「試験」しなくても同じ結果を得られるのだと思います。
ただ、私はやはり自分で経験しないとわからないのだなということも、今回改めて感じました。
今回のほぼ1/3の量を、今回よりも長い納期で四苦八苦していたころから7ヶ月ほど。
そう考えると確かに成長しましたが、まだまだ。
ここには書いていませんが、今回の案件に対しては改善点、反省点がまだまだあります。
今思うのは、1つの案件からもっと貪欲にさまざまなものを吸収しないと成長スピードは上がらないということです。
どこでペンディング、またはミスしてしまったのか、それはなぜか。これまでも記録はしていますが、もう少し「弱点」を意識することで、優先的に補充すべき点を見極めていく必要があります。
そして今回の案件をこなせたのは、過去の「資産」に助けられたからに他なりません。どれだけ積み上げてきたかがやはりものをいう世界です。
負荷をかけるといろんなものが見えてきます。
今回感じた「きつさ」は、おそらく数ヶ月後には「ふつう」になっているのでしょう。
そう感じられるように、1つ1つの案件に対して、前回より少しでも速度、質を改善できるように真剣に取り組んでいきたいと思います。