訳語確定の試行錯誤

訳語確定は多数決じゃない、の意味を知る

引っかかったものは仕方ない

昨日はトライアルのつもりで取り組む明細書の翻訳用に、

同一出願人の対訳の収集をしていました。

「疑似トライアル」と仮定した明細書には出てこないのですが、

どうしても引っかかってしまう単語があり、少し調べていました。

 

それは、proof mass という言葉です。

加速度センサに関する明細書で、例えば次のような一文があります。

Accelerometers function by detecting a displacement of a proof mass under inertial forces. ((US2016139171 (A1)より)

公開訳:加速度計は、慣性力の下でプルーフマスの変位を検出することにより機能する。

加速度センサは加速度を測定することで

得られた加速度から傾きなどを検知するセンサです。

カーナビやエアバッグなどに用いられています。

 

種類はいろいろありますが、例えば下記の図の「静電容量式」は

緑の部分が動くことで青の固定された電極部分で検出される静電容量が変化し、

その変化量を検出します。

 

(出典:EDN Japan

 

調査開始

プルーフマスと言う言葉は聞き慣れませんが、

意味としては上記でいう緑色の部分(Movable Parts)のことを言っているのだろうと

仮定して、調べてみました。

 

プルーフマスで検索すると、まず企業の「慣性センサ用語集」がトップに出てきます。

その中の「加速度センサの原理と種類」の項目に

「気泡式以外はどれも錘(プルーフマス)が慣性力で動こうとする(これをseismicという)のを捉えるものである」と記載がありました。

 

確かに上記の図にあったMovable Partsはいろんな企業の加速度センサの説明でも

「錘」「重錘」となっていました。

ひずみゲージ式加速度センサ(変換器)の基本構造例

(出典:共和電業

加速度センサの原理

(出典:キーエンス

 

ここで、明細書ではどう使われているのか、J-platpatで検索しました。

結果をまとめると、下記の通りです。

  • タイトルに「加速度センサ」、請求の範囲に「錘」→約500件、ほとんど日本企業
  • タイトルそのまま、請求の範囲に「プルーフマス」→5件、海外企業のみ(日本企業の現地法人も含む)
  • タイトルそのまま、全文で「プルーフマス」→11件、海外企業、日本企業も数件
  • 全文で「プルーフマス」→約430件、ほとんど海外企業

 

ここから、

やはりプルーフマスより錘のほうが日本の当業者の感覚に近いのではないか。

でも、プルーフマスも日本企業でも使用しないわけではないし、

もしかしたらプルーフマスと錘は完全に同義ではないのでは?

などと思い、

プルーフマスと錘が同時にヒットする明細書があれば関係性がわかると考え、

再度検索しました。

 

ここから、いろんなことが見えてきました。

明細書をいくつか引用します。

特開2018-108642

出願人:キャベンディッシュ・キネティックス・インコーポレイテッド

これらのMEMSに基づく加速度計の大部分は、センサの感度及び信号範囲を設定するために、複数の梁によって懸架された単一のプルーフマス(proof mass:標準質量を有する錘)をマイクロマシニングにより正確に形成することに依存する。

 

上記のように併記されている明細書も国内出願人、海外出願人問わず何件かありました。

これらを見ると、「プルーフマス=錘」でいいのかなとも思えるのですが・・・

 

こちらの明細書には、いろんなヒントが隠されていました。

特開2012-181050

出願人:独立行政法人科学技術振興機構、ヤマハ株式会社

なお、例えば、前記容量式センサに検知部を設け、加速度の検知対象となるプルーフマス部が移動した場合に、前記可動電極層と前記固定電極層との間に発生する静電容量の変化に基づいて、プルーフマス部に作用した加速度の大きさを検知するようにしてもよい。

図3(b)に示すように、プルーフマス部212においては、錘部材212bが梁部材212aによって外枠部材211cに支持された所謂片持ち状に浮いた状態となっている。

図3(b)はこちらです。

つまり、この明細書では錘単独ではなく、

梁部212aと錘部212bで構成された部分(黄色の部分)を合わせて

プルーフマス部だと言っていることになりますね。

 

ここで私はため息をつきました。

それは「梁+錘=プルーフマス」だということがようやくわかったからではなく、

その明細書のコンテクストで訳語を確定せよ、という当たり前の原則を

忘れていたことに気付いたからでした。

 

「プルーフマス」については他にもいくつか明細書を見ましたが、

図面からして完全に錘部分のみを指している場合もありますし、

上記の明細書のように、可動部分全体を指していることもありました。

 

訳語確定は多数決じゃない。

この意味を、まどろっこしい調査を経て実感しました。

 

肝心のproof massをどう訳すかですが、やはり「プルーフマス」とするよりも

コンテクストを見て「錘」や「可動部」にするべきだと考えています。

ただ、例えば今回の対訳の出願人はずっと「プルーフマス」を使っているので

それに合わせて訳しておいて、コメントを付けるのが良いのかなとも思います。

 

学習記録

10/28(日)の学習記録

項目: 対訳学習(引き続き調査)
目標: 14h     実績:14h50m

10/29(月)の学習記録

項目: 対訳学習(対訳収集・proof massについて調査)
目標: 6h30m     実績:6h50m

10/30(火)の学習計画

項目: 対訳学習(対訳収集)
目標: 6h40m