自分の書いた文章に、ん?と思うとき
昨日の記事に対してコメントを頂いたので(ありがとうございます!)、
返信すべく、仕事から帰ってからブログの編集画面を立ち上げた時、ちょっとした違和感を覚えました。
「トライアル合格島」へ上陸。
島へ上陸。
島へ上陸?
いや、おかしい。
普通は、島に上陸って言わないかな?
自分の感覚を確かめるために、google先生に聞いてみます。
- ”に上陸” :約 7,950,000 件
- ”へ上陸” :約 465,000 件
おお、圧倒的ですね。
内容も、「~に上陸」は気象庁などのお役所的なサイトが多くヒットし、「~へ上陸」は個人の書き込みがヒットする傾向にあるようです。(あくまで、おおよその傾向です)
「に」と「へ」の使い分け
次の2つの文章、どちらが自然でしょうか。
超大型で非常に強い台風が明日、日本に上陸する見込みです。
超大型で非常に強い台風が明日、日本へ上陸する見込みです。
「日本に上陸」は、「上陸する」というイベントそのものにフォーカスが当たっていて、「日本へ上陸」は、中国でも韓国でもなく日本に上陸するんだ、と方向にフォーカスが当たっている、そんな感じを受けませんか。
文章が劇的にウマくなる「接続詞」という本では、「に」と「へ」の使い分けについて次のように説明がされています。
「に」は「目的地(移動や変化の結果)、「へ」は「方向(移動や変化の過程)に重心を置いた言葉です。
<例>
(1) 会社に行く:会社を目的地として書くとき
(2) 会社へ向かう:会社を目指すという意味で書くとき
(文章が劇的にウマくなる「接続詞」p.194より)
先ほどあくまでも検索結果として、「~に上陸」のほうが多いというお話をしました。
ただ、検索結果の多数決で、何でも「~に上陸」にすればよいというわけではありません。
NHKのサイト(放送現場の疑問・視聴者の疑問)から引用します。
Q:台風の進路を伝えるときは、「北に向かっている」と「北へ向かっている」のどちらがよいでしょうか。
A:(前略)台風の進路を伝える場合は、台風が向かう到着点が決まっているわけではなく、重要なのは「向かう方向」なので、どちらかというと「北へ向かっている」のほうがいいかもしれません。しかし、こうした「に」と「へ」の意味の使い分けは現代では、たいへんあいまいです。
「向かっている」状態ですから、確かに方向に重心が置かれていますよね。
そして上陸した場合は、台風が移動して、上陸という結果が起こったのですから、「〇〇に上陸」のほうがしっくり来るというわけですね。
これを踏まえて、私の昨日の記事のタイトルをもう一度見てみます。
「トライアル合格島」へ上陸。
私は今回、「トライアル一発不合格島」でもなく、「その分野はそもそも無理でしょ島」でもなく、他でもない「トライアル合格島」に到達しました。
到達した場所と結果にフォーカスが当たっています。
ですので、やはり「トライアル合格島」に上陸とすべきだったと思います。
どっちでもいーじゃん!
1年前の自分なら、そう思うかもしれません。
でも、私はプロの翻訳者を目指しています。
翻訳者は、言葉を誰よりも正確に操らなくてはなりません。
自分のレベルはまだまだなんだなぁと、助詞ひとつの使い分けからもわかります。
これも成長記録なので、昨日の記事のタイトルはそのままにしておきます。
前置詞に弱い根本的な理由とは
すこし前の翻訳ミスに関する記事で、私はどうも前置詞に弱い、というお話をしました。
これ、「助詞に無頓着」なことと大いに関係していると思うんですよね。
無頓着だからこそ、それが「条件」なのか「手段」なのかを考えずに訳す。
無頓着だからこそ、前置詞を抜かして訳文を作ってもおかしさに気付かない。
結局のところ、突き詰めれば「その文をイメージできていない」、つまり「正確に内容理解できていない」ということになるのだろうな、と思います。
どうしても癖で、という部分は、校正ソフトやマクロなどでメカニズムで防げば良いのですけど、メカニズムで防ぎきれない部分も当然、出てきます。
その「防ぎきれない部分」に対してどう対応するかはとても難しいです。
今回の「に」と「へ」の使い分けのような、日本語に対する感度を高める努力をする、ということは一つのアプローチだと思っています。