バイオ・医薬

医療用レーザー:波長と水の吸収率の関係を考え直す

こんにちは。

突然ですが、

「人間は見たいものしか見ない」とよく言われますね。

 

おいしそうなスイーツの記事は見ても、

「平均年収180万円の時代に備えよ」なんて記事はスルーしてしまったり。

他人からの貴重な意見も、グサッと刺さる部分は「なかったこと」にしてしまったり。

 

そして、「見たい物しか見ずに何かをまとめる」と当然、その情報には偏りがでてきますよね。

今日はそんなお話です。

 

「見たい物しか見ない」例

昨日、炭酸ガスレーザーが水の吸収率が高いので、処置の影響が深層に及ぶことがないため医療用途にはよく使用されるという記事を書きました。

そのときに次のグラフを引用して、炭酸ガスレーザーの水に対する吸収率の高さを説明しました。(炭酸ガスレーザーの波長は、紫丸印部分の10600nmです。)

文部科学省の資料を一部加工)

 

あれ?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

もっと吸収率高いとこ、あるやんけ。

この図の赤丸の部分ですね。波長3000nm付近です。

これは目に入っていなかったわけではないのですが、「炭酸ガスレーザーは水への吸収率が飛び抜けて高い」を説明するためには「いらない情報」です。

なので、非常に恥ずかしながら「この飛び抜けて高いところは何だろう、この波長を使ったらもっと効率的では?」と考えて調べるということをしていませんでした。

まさに「見たいものしか見ない」状態でした。

 

水への吸収率が一番高いレーザーは、Er:YAGレーザー

ということで、昨日の記事への訂正という形で、この本当に吸収率が高い部分は一体どういうことなのか少し補足させてください。

 

この吸収率がずば抜けて高い部分の波長(2940nm)を用いるレーザーがあります。

それが、Er:YAGレーザーというレーザーです。

変わった名前ですが、YAGというのはイットリウム、アルミニウム、ガーネットから作られた人工結晶の一種で、そこにEr(エルビウム)という元素を添加したものをレーザー光を増幅させるための媒質として用いているレーザーです。

水への吸収率が高く、処置領域の周辺組織を傷つけることがないため、歯科用途(虫歯治療など)で多く使用されています。

 

水への吸収率が高い、をもう一度考える

昨日の記事では水への吸収率が高いことと生体組織の深部への影響が低いことについて、こう説明しました。

吸収率が高いということは透過率は低い。透過する光が少なければ、表面ですぐさま吸収され熱エネルギーに変わり、組織内部へは浸透しないということになる。

 

この説明も、不正確だったので訂正します。

「表面ですぐさま吸収され熱エネルギーに変わり」と書いている箇所、ここはコマ送りにするとこういうことです(こちらの論文を参考にしています)。

レーザーのエネルギーによって、生体組織の温度が水の沸点である100℃に達する

細胞間に存在する間質液がレーザーによる熱で蒸発する

細胞内水分が温度上昇により急激に膨張し、細胞膜が破壊される

破壊された細胞質が飛散することで、組織が除去される

 

昨日読んだ明細書の中に、「炭化(エネルギーが強すぎて照射領域の周囲が焦げてしまう)を防ぐにはどうしたら良いか」といった内容のものがあり、

その中を追いかけていって蒸散や炭化の仕組みを理解して、自分の思い違いにようやく気づきました。

 

「都合のよい情報だけ取り込む」フィルターをはずそう

何かを考えるとき、仮説を立てるのはとても重要です。

仮説を検証するには、様々な資料に目を通す必要があります。

その中には、自分の仮説を裏付けるものもあれば、逆に否定するものもあるでしょう。

 

その「否定するもの」の中に、考えのヒントが眠っているかもしれません。

なぜこれはこうなのか、自分の考えのどこが間違っているのか。

そうやって「差」に注目して考えていくうちに、解決策が見えてくるのだと思います。

 

かくいう私も、今回のように「都合の良い情報だけ取り込むフィルター」を働かせて、楽をしてしまっていることが多いです。

情報を読み取り、分析してまとめる力。

このとっても大切な力を養うには、日々の訓練の積み重ねしかないでしょう。

「何か見落としていないか」と自分自身にフィードバックをかけながら、少しずつレベルアップしていきたいと思います。

 

 

参考文献: