ほんの4、5年前。
中国人といえば「爆買い」というイメージがありました。
今では「爆買い」はなりを潜めて、より「体験型」の消費へシフトしているといわれています。
その中のひとつが、「医療ツーリズム」です。
検診や治療目的で来て、ついでに観光も楽しむ。
ただ、実際に私の近くで医療ツーリズムに来ている中国人は見たことがなく、実態がよくわかりません。
本当にそんな人たちが増えているんだろうか。主な目的は何なんだろうか。
そんな疑問を持ちながら、少し調べてみました。
「医療ツーリズム」は本当に増えているのか?
医療ツーリズムとは、医療観光やメディカルツーリズムとも呼ばれ、医療サービスを受けることを目的で外国に行くことを指します。
主な目的は、自国で技術の問題、もしくは費用の問題で受けられない医療を外国で受けることです。
私は「ツーリズム」の言葉から、「観光のついでに検診」のようなイメージでいたのですが、あくまでも医療が主目的なのですね。
さて、「医療ツーリズムに来ている人の推移」を調べようと思ったのですが、これは実は、明確な統計がありません。
2018年度の経済産業省の外国人患者の医療渡航に関する資料でも、
外国人患者の医療渡航に関するデータがないため、どの国からどれ程の患者が渡航しており、どの疾患のどの治療にニーズがあるのか全く分からないため、対応策を十分に検討できない。
との声が、医療現場や、医療ツーリズムをアレンジするコーディネーター機関から上がっている状況でした。
統計として参考になるものの一つに、医療ビザの発給推移があります。

(出典:経済産業省資料)
医療ビザは、医療目的で長期滞在(最大1年)する方向けのビザです。
数日で終わる検診、治療目的で来日する外国人については恐らく医療ビザを取得せずに来日しているでしょうから、このグラフからでは正確な動向はつかめません。
それでも、医療ビザ発給が開始された2011年の70件から、2018年には1383件にまで急増しているということ、そしてその9割近くが中国国籍の方へ発行されていることが読み取れますね。
中国人が「医療ツーリズム」で来日する主な目的は?
9割が中国人。
確かに、この状況は医療ツーリズムといえば中国人、といえるのかもしれませんね。
では、中国人は何の治療の目的で日本に来ているのでしょうか。
以前ニュースでMRIなども組み込んだ人間ドックが人気だと報道されていましたが、どうでしょうか。
下のグラフは、経済産業省の資料中の、ある医療コーディネーター機関の受け入れ実績を示したグラフです。

症例の分野としては圧倒的に「がん治療」ですね。
以下、循環器内、検診・健診と続きます。
この統計では、中国人は65%ですので「中国人のほとんどはがん治療に来ている」とまでは断定できませんが、おおよその傾向はつかめますね。
「がん治療」は日本が第一選択肢ではない?
日本の高度医療技術、そして手厚いサービス、距離の近さ、観光地としての魅力などの理由で、
日本へがん治療に来る中国人は増加傾向にあることが、ここまでの調査でわかりました。
ただ、調べていくなかでひとつ疑問が生じました。
「実はがん治療の目的で医療ツーリズムを希望している中国人のうち、日本を訪れている人はほんのわずかなのでは?」という疑問です。
きっかけはこちらのAFP通信社の記事です。
中国の富裕層にとって、「国外治療」はまさしく生活の一部になっている。ある機関の大まかな統計によると、2017年に中国で治療目的で国外へ渡航した人の数は60万人を超えており、うち80%ががん患者だとされている。
中国国籍の方への医療ビザ発給は、最新の2018年の統計によると1390件です。(政府統計資料より)
もちろん、医療ビザなしで来日し治療を受ける方が相当数いるのでしょう。
ただ、上記のニュースの「大まかな統計」によれば60万人のうちの80%、約48万人が海外でがん治療を受けていることになります。
だいぶ数字が乖離しているな、と感じました。
そこで「中国人の医療ツーリズムの行き先」について調べてみました。
こちらの記事のように、中国人の中では、がん治療はアメリカでというイメージが強いようです。
これは以前からアメリカが医療ツーリズムに積極的であり、日本は2010年頃からようやく医療ツーリズムを観光資源として成長戦略に組み込んだので、その違いもあるのでしょう。
記事によりますと、日本はどちらかというと「健診に行く国」というイメージが強いようです。
これは実際に、中国の検索エンジン(今回はbaiduを使いました)で検索した時にも感じました。
「がん 国外」で検索してみたときに、トップページに現れるのは、アメリカ(美国)の記事ばかりでした。

日本、と入れると当然日本のがん治療の記事も出てくるのですが、より関心が高いのはアメリカでのがん治療なのだろうなと実感しました。
検索ワードを変えてみたり、サジェスト機能で出てくる用語を確認したりして、いろいろな「現場の声」を収集しました。
このあたりはまた別途、まとめてみたいと思います。
今後の中国人向け医療ツーリズムの発展性について
中国は世界でも有数のがん大国です。
こちらの記事によりますと、2015年の統計では、新たにがんと診断された人数、死亡数ともに世界の3割を占めています。
今後も高度な医療を求めて、医療ツーリズムを選択する中国人はますます増えるでしょう。
この需要を満たすことは、医療ツーリズムを促進したい日本側とのニーズとも合致します。
そのため、医療ツーリズムは今後も成長が期待できる分野といえるでしょう。
なぜ、日本のがん治療が優れているのか。
なぜ、中国では治療できないのか。
このあたりが今、とても気になっています。
医療ツーリズムについて、知りたいことが山積みです。
少しずつ山を崩しながら、また記事にしていきます。
asaさん、興味深い記事をありがとうございます。
私の推測では、日本を選ぶ人のなかには
粒子線治療を目的とする人が一定数いると思います。
粒子線には重粒子、陽子線がありますが、
重粒子線は日本が世界をリードしている(と思います)。
アメリカは重粒子線で出遅れており、
アメリカにセカンドオピニオンを求めていくと、
重粒子線がいいにもかかわらず、
陽子線を勧められてしまうことがあるようです。
このあたり、
日本国内でも重粒子線と陽子線の違いに焦点があてられることが少なく、一時期憤りを感じていました。
(政治的な動きも関係しているみたいです)。
中国にも粒子線治療を受けられる施設はありますが、
海外に行くのは安心感(国の医療への不信感)もあるのかなと思っています。
とりとめのないコメントですみません。
Ayumiさん
コメントありがとうございます!
なるほど。日本は重粒子線治療でリードしていたのですね。
陽子線と重粒子線、放射線治療については
Ayumiさんが以前別ブログで記事を書かれていたな・・・と思って読み直しました。
とてもわかりやすく書かれていたのでバッチリ違いがわかりました。
重粒子線は周囲の正常組織には影響を与えずがん細胞だけに作用でき、
しかも直接作用なので陽子線で対処できないがんにも効くということですね。
またじっくり調べたいことが増えました。
ありがとうございます!