訳語確定の試行錯誤

腫瘍と腫瘤と肿瘤と肿块

「腫瘍」と「腫瘤」。

違いはご存じでしょうか。

ざっくりいえば、腫瘤は体にできた塊で、腫瘍は増殖能力を持ったものです。

(腫瘍は実は「塊」とは限りません)

 

中国語にも日本語の「腫瘍」と「腫瘤」に対応する言葉があります。

辞書を引くと、日本語の腫瘍が肿瘤(腫瘤)で腫瘤が肿块(腫塊)です。

なかなか混乱しますね。

 

今私は中国語から日本語への翻訳をしていますが、そんな中でこの単語に出会いました。

今日は「腫瘍」と「腫瘤」の違いについてご紹介します。

 

腫瘍と腫瘤の違い

まずは、腫瘤と腫瘍の違いについて見ていきます。

最大の違いは、「自己増殖能力を持つか持たないか」です。

 

私は腫瘍と腫瘤について、実はこれまで少し勘違いをしていました。

腫瘤は体にできた塊で、それが大きくなるものが腫瘍だと思っていました。

つまり腫瘤という大きなくくりの中に、腫瘍とそうでないものがあるというイメージです。

以前の私の脳内をまとめると、こんな感じです。

どこが勘違いポイントだったかというと、

腫瘍の中には腫瘤ではない(塊を作らない)ものもある、ということです。

白血病は白血球が異常増殖する、つまり腫瘍化することによって引き起こされますが、白血球が塊を作るわけではありません。

つまり、白血病は腫瘍ではありますが、腫瘤とはいえないということですね。

なので、腫瘤と腫瘍とは分けて考えた方がわかりやすいのではないかなと思います。

腫瘍はさらに良性と悪性に分けられますが、良性と悪性の判別ポイントは「転移能力を持つかどうか」です。

 

これまでの話をまとめますと、こんな感じです。

 

腫瘍と腫瘤については、知ってもらいたい医学用語の基本という医療教育情報センターの解説記事にとてもわかりやすくまとまっていました。

今回の記事もこちらの記事を参考にさせて頂いています。

 

中国語と日本語の、腫瘤と腫瘍

中国語にも、腫瘤と腫瘍に対応する言葉があります。

日本語:腫瘤 →  中国語:肿块(腫塊)

日本語:腫瘍 →  中国語:肿瘤(腫瘤)

日本語の腫瘍が中国語では腫瘤なので、紛らわしいといえば紛らわしいですね。

 

ただ、翻訳をしているときにはその「紛らわしさ」とは別の場所で少し考えてしまうこともあります。

そしてそこから、自分の思い込みに気づくこともあります。

 

例えば、最近「恶性肿块」(悪性腫瘤)という言葉に出くわしました。

 

この言葉、当初ものすごく違和感を感じました。

悪性の腫瘤ってどういうことだろうか。腫瘤はただの塊で悪性も良性もないはず。恶性肿瘤(悪性腫瘍)の間違いではないか、と思ったのです。

ただし、日本語でも中国語でも、検索してみると「打ち間違い」とはいえない件数の「悪性腫瘤」がヒットします(圧倒的に「悪性腫瘍」の方が多いですが)。

 

ここで、「悪性腫瘤はおかしい」というのは自分の勝手な思い込みだろうと思い、「悪性腫瘤」の使われ方を検索しました。

調べた結果、「やはり”腫瘍”とすべきではないか」というものもありました。

 

多かったのは「悪性腫瘤を疑う」「悪性腫瘤の判断」などの言葉です。

何か検査で塊が見つかった。その時点ではそれが増殖する(している)のかしていないのかわからない。けれども将来的に増殖する可能性がありそうな所見である・・・

ということを言っているのでは、つまり、「腫瘍化しそうな腫瘤」という意味で使用しているのかなと思いました(きちんとしたソースの裏取りは取れていません)。

 

たぶん、「辞書の意味がちゃんとあるのだから、それ通りに訳していけばいいじゃないか、そこは悩むポイントじゃない」と思われるかもしれません。

妙な所にこだわりを持つ、ちょっと難儀な性格を自覚しています。

 

ただ、もし腫瘤とするべきところが原文の何らかのミスで腫瘍になっていたら、それは指摘する必要がある、そのくらい「腫瘤」と「腫瘍」の持つ意味は違うんじゃないかと思います。

 

まとめ

腫瘤と腫瘍の違いは、その組織が「自己増殖能力を持つか持たないか」です。

腫瘤は体や臓器の一部にできた塊で自己増力能力を持たず、

腫瘍は自己増力能力をもつ組織の集まりで、白血病のように塊を形成していないこともあります。

 

腫瘍と腫瘤の違いに、なんとなくもやもやしていた方の参考になれば幸いです。