日々の学習記録

初めてのチェッカー案件で学んだ3つのこと

先日、初めてのチェッカー案件を担当しました。

 

チェッカーもやるといいよ、勉強になるから

今まで散々耳にしてきた言葉です。

この意味が、自分がやってみてようやくわかりました。

 

気づきを3つ、メモしておきます。

気づき1:翻訳とは何かを知った

今回の案件は産業翻訳で、若干トランスクリエーション的な要素も一部入っていました。

原文の意図をくみ取りつつ、日本語として違和感のない訳文で、かつその用途に的確な訳文である必要がありました。

 

この点、今回の翻訳者さんはとてもレベルが高かったです。

チェックしながら、「あー、なるほど、そう訳すのか、うまいな-」とうなったこと数知れず。

原文の順番などもかなり変えていたり、用語も辞書に載っている中心の意味からかなり離れた用語を選択していたりしたりするのですが、確かに原文の意味はきちんと反映されていました。

 

あ、これぞまさしく「翻訳」だな、と思いました。

と同時に、私はまだ「英文和訳」の域を出ていないな、と自分のレベルを実感しました。

「翻訳」と「英文和訳」の違いについては、山岡洋一さんの「翻訳とは何か: 職業としての翻訳」を読めば嫌というほどわかります。

どんな本か知りたい方は、過去記事にて少し紹介していますので参考にしてみてください。

翻訳者になるには?と考える前に読みたい本 ー「翻訳とは何か : 職業としての翻訳」

 

ただ、チェッカーの立場でいうと、こういった案件では原文と訳文が本当に等価であるのか、きちんと翻訳されているのか(抜けていないか、誤訳になっていないか)の確認・評価は難しいなと感じました。

私としては、この一語が原文に入っているのは意味があると思うのだけど、訳文には反映されていない(が翻訳者としてはその要素も含めていると考えているのかも)ということもあり、どうしようか悩んだ箇所がありました。

 

今回の案件は、自分が通常翻訳している案件とはだいぶ違う分野です。

それでも、訳出の参考になるヒントが山盛りでした。

もし同じような案件であれば、「他の人はこの単語(表現)はこういう風に訳すのか」と自分の訳出の差と比較して、さらにそこからレベルアップさせていくことも可能だなと感じました。

 

今回は、「訳出の参考になった」こともそうなのですが、「レベルの差」をまざまざと感じさせられたのが一番の収穫です。

「自分はまだ本当の「プロ」とは言えない」という危機感を強く持ち、翻訳力の支えとなる地盤(読解力など)を身につけるべく、今後の学習の方向性を考えるきっかけになりました。

 

気づき2:「見る側」からコメントの付け方を考えるきっかけになった

これまでコメントは「付けるもの」でした。

翻訳者として「どう書いたらわかりやすく相手に負担がないだろうか」と考えつつ、普段の案件ではコメントをつけています。

 

はじめて「コメントを読んでアクションを取る側」に立つと、これまたいろんなものが見えてきます。

まずは、他の人がどのようなコメントを付けているのかを知ることができますね。

 

今回原稿を見てまず思ったのは、「コメント、めっちゃ多い」ということでした。

今回が初めてのチェッカー案件なので比較はできないのですが、1枚のワードファイルにだいたい3個以上、多い時は5、6個ついている感じです。

普段自分が翻訳案件で付けるコメントの数と比較したら(もちろん案件にもよりますが)多いな、という印象でした。

 

肝心のコメントの内容は、だいぶぼかして書きますが要は「自信ないから確認してね」というものが大半でした。

理由があって、「確認してね」があるところも、理由なく「確認してね」のところも。

 

当たり前ですが、見る側となれば理由があった方がアクションは取りやすいですよね。

困ったのは、理由なく「確認してね」のところでした。

翻訳者の方がどのくらいの確信を持って訳出をしているのか、なぜ確認を求めるのかがわからないと、求められているアクションがわからないからです。

 

今回の翻訳会社からの受注も初めてなので、この会社ではこういうルールなのかもしれません(マニュアルに書いてあった「コメントの付け方」はもっと違うものだったのですが)。

 

今回コメントを見る側になってわかったのは、コメントを付けるのであれば

  1. 翻訳者がどこまでわかってこの訳語を確定したのか知りたい
  2. チェッカーに何を求めてそのコメントを付けているのか知りたい

ということでした。

(2)については私の経験不足もあるでしょうし、翻訳会社それぞれのルールもあると思います。

 

今回の案件を通じて、今後翻訳者としてコメントを付ける際は「どこまで調べていて、コメント見る人にどうしてほしいのか」を意識してつけなくてはならないと実感しました。

この意味でも、チェッカーを経験して良かったと思います。

 

気づき3:チェッカーに求められるレベルを知った

今回の案件、以前トライアルに合格したもののずっと打診のなかった翻訳会社から頂きました。

正確には1件打診を頂いたものの、タイミング悪く引き受けることができずそれから数ヶ月音沙汰なしだったので、「縁がなかったのだろうな」と半ば諦めていました。

そんな中突如舞い込んできた依頼だったので、喜んでお引き受け・・・

・・・する前に、実は少し躊躇しました。

 

というのも、案件の内容からは対応可能と判断したのですが、指定された納期で果たしてできるのか、自信がなかったからです。

ざっくりですが、7000ワード程度、納期は午後の打診から約18時間後(夜を含みます)。

 

チェッカーは短納期だというのももちろん聞いていましたが、いざ目の前に来てどのくらいのスピードで処理しなくてはいけないのかを計算すると、「正直きつい」の一言でした。

「これを逃したら次は本当に打診はないだろうな」という気持ちもあり、引き受けました。

 

結論から言って、今までの翻訳案件の何倍もきつかったです。

この短時間で、内容を理解し(今回はわかりやすい資料があったので助かりました)、各チェック工程のチェックをこなし、翻訳者のコメントに返信する。

諸々の準備不足(あとでまとめます)を抜きにしても、「翻訳者よりチェッカーの方が求められるレベルは高いのでは?」と思いました。

 

私は今、翻訳でもそこまできつい納期の案件がないために、きつい案件に対してスケジュールを組んでやること、そして日々生産性を高める、という努力を怠っていたなと感じました。

そして、このくらいのスピード感で現場は動いているんだ、これが一般的に求められるスピードなんだ、ということも実体験として得られました。

 

次に向けての改善案

今回、完全に準備不足の中、短納期(自分の中では)の案件に挑戦したことで多々反省すべき点がありました。

まとめると下記の2点です。

自分の作業スピードを過大評価していた

チェッカーとしてのスキームが確立されていなかった

 

案件引き受け時に、翻訳案件を受けている時のチェックのスピードを参考にして概算の所要時間を割り出し、いけるだろうと判断しました。

この所要時間、かなり甘く見積もっていて途中でものすごく焦りました。

 

そもそも、「自分の訳出したもののチェック」と「他人の訳のチェック」の時間が同じなはずはありません

そしてさらに、「この翻訳会社のチェッカーとしてのチェックスキーム」も大昔に作ったっきりで、あまり使い物になりそうにありませんでした。

付け焼き刃で、指示書+翻訳時のチェックスキームを合わせたものを作り、それにしたがってやる予定でしたが、「指示書」の部分は普段のチェックスキームに入っていない部分だったので、半端なくもたつきました。

(余談ですが、一発で置換できるソフトは今回も役立ちました。受講生向け情報ですが、1480_翻訳スタイル遵守に役立つソフトが参考になります)

 

過ぎてしまったことは仕方がないので、次回のために今回の作業を踏まえてスキームを更新しました。

今回、翻訳会社独自のシステムや納品方法などについてもマニュアルを見ながらの作業になってしまったので、そのあたりもきっちり入れ込んでいます。

次はもう少し落ち着いて取り組めるはずです。

 

まとめ

初めてのチェッカー案件は、初めての翻訳案件以上に「ほろ苦デビュー」となりました。

それでも、「チェッカーの仕事から学ぶ」とはどういうことか、肌感覚で理解できました。

 

レートと掛ける労力・時間で見たら、「割に合わない」かもしれません。

ですが、チェッカー業務から得られるものは、翻訳業務とはまた異なります。

違う立場から物事を見ると普段の自分のやり方を顧みることにもつながりますし、他の方の訳文から学べることも多いです。

案件の内容(分野や翻訳者のレベル)によって学べる内容・程度はさまざまだと思いますが、機会があれば是非、チェッカー案件も検討してみてはいかがでしょうか。