CATツール(翻訳支援ツール)、使っていますか。
私が使い始めたきっかけは、「翻訳で生計を立てていくなら絶対に必要」と他人からアドバイスを受けたことです。
今ではツールなしでの翻訳は考えられません。
ただ、CATツールには、価格が高いとか、使い方が難しそうとか、そもそも何ができるのかよくわからないといった「とっつきづらい」部分が確かにあります。
私も他人からの強いアドバイスがなければ、「まあ本当に必要になってから検討しよう」と思って先送りにしていたはずです(IT系は苦手な方です。いろんなものをよく壊します)。
この記事では、
- CATツールに導入するほどの価値があるのかわからない
- 自分は機械音痴なのでたぶん使いこなせない
と思われている方に、CATツール導入の最初の一歩を踏み出していただくために書いています。
この記事でわかることは次の2点です。
- どんなメリットがあるのか?
- どうやって使い始めればよいのか?
*翻訳は実務翻訳(産業翻訳)を前提としています。出版翻訳などには当てはまらない点もあるかと思います。その点はご了承ください。
Contents
CATツールとは
まず、簡単にCATツールとは何か、についてまとめておきましょう。
Trados、memoQ、Memsourceなど、さまざまな種類のCATツールがあり、それぞれ特徴がありますが、共通する基本的な機能は次の通りです。
- wordなどさまざまなフォーマットの文書を読み込ませて、1文ごとに区切られた単位で翻訳する(区切られた単位は後で分割・結合することができます)
- 区切られた単位を翻訳メモリとして蓄積して、別の案件で参照できる
- 翻訳中に用語を登録できる。登録した用語は用語集として他の案件でも使用できる
- 同一の翻訳メモリがある場合は自動的に読み込んだり、類似のメモリとの差分を表示できる
- 訳文を生成したり、原文・訳文のバイリンガル形式で生成できる
CATツールのメリット
私が思うCATツールを導入するメリットは、次の3点です。
- 翻訳スピードの向上
- 翻訳ミスの防止
- 仕事を頂けるチャンスの増加
メリット1:翻訳スピードの向上
翻訳作業は、細分化すると次のような工程に分けられます。
- 原文を読んで頭の中で意味を理解する
- 理解できなければ調査する
- 適宜辞書などを使用して用語を確認する
- 訳文を生成し、打ち込む
このうち、CATツールは②~④の工程をアシストしてくれます。
例えば、「訳語検索」という機能があります。
今翻訳中の単語が、過去どのような文脈でどのように使用されたかを参照することで、調査の時間の短縮につながります。

登録されている用語については原文上(下記図の赤枠部分)で強調表示されます。翻訳結果(オレンジ枠部分)の単語を選択すれば、その単語を訳文へ入力することができます。
この画面コピーはmemoQのものですが、memoQは直接原文上(赤枠部分)で強調表示されている(登録されている)単語をクリックすることでも訳文へ入力されます。
何度も繰り返し登場するフレーズを登録しておくと、作業効率が劇的に向上します。

さらにスピードアップに貢献するのが、翻訳メモリ内にまったく同じ原文があればその訳文を適用し、類似文があれば、その差分を表示したり数値のみの違いであれば差異を修正して適用する機能です。
次の画面では、左側(オレンジ枠)に「翻訳結果」に87%一致する翻訳メモリがあることが示されています。
これをクリックすると、右側の青枠に、その既存の翻訳メモリと今翻訳しようとしている文章との差分が表示されます。
これを確認しながらフレーズを追加・削除すれば、一から文章を組み立てるよりも断然スピードが上がります。

メリット2:翻訳ミスの防止
メリット1でご紹介した用語集や翻訳メモリの活用は、スピードアップだけではなく翻訳ミスの防止にもつながります。
用語集に登録した用語を必ず使用するようにすれば、訳揺れの発生を防ぐことができます。
また、「登録したはずなのに登録されていない」用語が出てくれば、それは原文側のスペルミスや表記揺れかもしれません。
翻訳中に訳語が決めきれずにとりあえず仮置きする場合も、ひとまず登録しておいて統一させておくと、あとで変更するときに漏れることがありません。
CATツールにはそれぞれ校正機能も備わっているので、それらを活用することもできます(ただ、個人的にはCATツールの校正機能はあくまでも補佐で、他のツールや目視でのチェックが必須だと思っています)。
メリット3:仕事を頂けるチャンスの増加
翻訳者募集サイトなどで、「CATツール使用者歓迎」などの条件を見たことはないでしょうか。
以前翻訳会社の方とお話する機会があり、実際のところどうなのか聞いたことがあるのですが、やはりトライアル前の書類選考も通りやすくなり、仕事を発注する機会も増えるとの話でした。
もちろん、翻訳会社やエンドクライアントによって、状況はまちまちだと思います。
ですが、一般的に「ツール使用者歓迎」の傾向にあると考えてよいと思います。
導入から使いこなすまで
どのCATツールを使えばよいのか
現在、日本でメジャーなCATツールというと、Trados、memoQ、Memsourceです。
それぞれの特徴を簡単にまとめます。
TradosとmemoQについては頻繁にセールをしているので、定価はあくまで参考までです。
SDL Trados 2019 | memoQ | Memsource | |
定価(フリーランス翻訳者用、2ライセンス) | ¥109,000 |
(約\82,000-\54,000) | 無料(同時に2つのファイルまで)またはUSD27/月 |
オフライン/オンライン | オフライン | オフライン | オンライン/オフライン |
特徴 | 使用者が多い 情報(公式・非公式)が充実している 機能は充実しているがエラーも多い | Tradosより割安 情報はTradosより少ない 軽く、操作性がよい | 機能は制限されるが無料で使用可能 オンラインなのでどのPCでも作業できるが、ネット環境が必要 |
備考 | Trados 2021からオンライン版もあり |
私はこれまでTradosをメインで使用してきて、エラーが多いことに我慢できなくなり最近memoQを使い始めています。今のところ、翻訳作業はmemoQの方が断然快適だと感じています。
ただ、総合的な機能で判断すると、Tradosが優れているところもあるため、現在は並行して使用しています。
Memsourceは何度か試しに使用したくらいです。
どれがいいかというのは難しいのですが、業界のスタンダードであることと、Tradosを指定されることもあるので、どれか1つ選ぶならやはりTradosを導入したほうがよいのでは、と思います。
Memsourceは無料で使用できるので、まずCATツールがどんなものか試してみたいという方にはおすすめできます。
また、TradosもmemoQも30日の無料トライアルサービスがありますので、無料期間を利用して比較する手もあります。
どうやって操作方法を覚えればよいのか
CATツールの導入後、どのように操作方法を覚えていくかについては、結論から言えば「いろいろ触ってみて体で覚える」のが一番です。
とはいえ、ゼロからいきなり見知らぬアイコンばかりの場面に向かい合って一から操作を学んでいくのはかなりハードルが高いのも事実です。
そこで、いくつかツールの操作方法を覚えるのに参考になる方法をご紹介します。
CATツールの公式ウェビナー・トレーニングを利用する
これは、特にTradosに当てはまります。
Tradosはウェビナーなどの教材が充実しています(過去のウェビナーへのリンク)。
また、実機を使用したハンズオントレーニングも開催されています。
市販のマニュアルを利用する
私は、「翻訳ツール大全集」というpdfの資料を活用しました。
「翻訳ツール大全集」には、Trados、memoQ、Memsourceをはじめ、翻訳に有用なその他のツール(PAT-Transer(特許翻訳用の機械翻訳ソフト)、秀丸(テキストエディタ)、Xbench(対訳表示、校正ツール))の基本的な使用方法が、画面コピーで詳しく説明されています。
現役の翻訳者によるものなので、実務翻訳者がツールを使用する上で必要な操作がマスターできるように作成されています。
ただ、この書籍が出版されたのは2017年なので、紹介されているCATツールのバージョンは若干古いものです(Trados 2014、memoQ 2015)。
ただ、私は今年(2020年)になって、「翻訳ツール大全集」を参照しながらmemoQとMemsourceの基本的な操作をマスターしましたが、特に仕様の変更などで問題になることはありませんでした。
次のTrados 2021についてはかなり大幅に変わるようなので(特にオンライン版については)、もしかしたらそのまま参照するのが難しい箇所も出てくるかもしれません。
Kindle版がKindle Unlimitedに登録されていますので、全体的にどのような書籍なのかを確認されたい方は利用してみてください。
ただ、購入の際は公式ページのpdf版を購入されることを強くおすすめします。pdf版の方が画面コピーも鮮明で、必要があれば印刷もできるからです。
講座を利用する
本格的に集中してCATツールの操作方法を学びたい、という方には、現役翻訳者が主宰している翻訳支援ツールマスター講座もあります。
こちらは私は利用したことがないのですが、テキスト+動画ベースのコースと、OJTコースなどがあるようです。Tradosの教材は2017を使用していて、2019にも対応している(両者が操作上ほぼ変更がないため)ようですね。
2025年7月追記:「翻訳支援ツールマスター講座」は2022年12月でサービスを終了されたようです。リンクを削除しました。
まとめ
CATツールを使いこなせるようになれば、
翻訳スピードがあがり、ミスも防止でき、さらにツールを使用していない人よりも有利に仕事を獲得できる可能性があります。
CATツールは使えば使うほど、資産としてメモリや用語集が積み上がっていき、さらに業務の効率化を図ることができます。
各社無料のトライアル期間を設けていますので、まずはぜひ一度使ってみてください。
そのありがたみがわかると、手放せなくなるはずです。