ミス対策

【1/28追記】1/27 誤訳メモ:係り受け・文の区切りのミス

 

1/27投稿分に追記しています。

この緑枠の部分が追記分になります。

ビデオセミナー3406号(文章の切れ目が見えない本当の理由)で頂いたアドバイスを元にしています。アドバイスありがとうございました。

明細書の概要

原文:WO2018046642A1

公開訳: 2019-532921

概略:粉末に液体を噴射し、放射線により反応させ固化させることで造形物(医薬品)を作製する方法について。下記のMMJは液体射出装置(Multi Material Jet)。

 

その1:主語が見えていない

原文

By managing size of droplets, amount of droplets and specific target place the exact placement on and penetration depth in a substrate can be precisely controlled.

当初訳

液滴のサイズ、液滴の量及び正確な配置上にある特定の目標位置、並びに基材への浸透深さを管理することで正確に制御できる

公開訳

液滴のサイズ、液滴の量及び特定の目的場所を管理することにより、基材上の正確な配置及びその中への侵入度を正確にコントロールすることができる

ミスした箇所とその原因

どこが主語部分か見えていない。

本来は下記のように区切るべきところを、

By managing size of droplets, amount of droplets and specific target place //

the exact placement on and penetration depth in a substrate can be precisely controlled.

「specific target place the exact placement on」をひとかたまりとして見てしまっている。

 

訳出当初も違和感があったが、原文が明細書全体を通してコンマや関係代名詞の省略が多かったので「specific target place (that/where)the exact placement on」と勝手に解釈していた。

自分の訳文をチェックしている時にも気づかなかった。

 

1/28追記・訂正

この明細書の肝となる部分が何かを明確にしないまま(書き出さずに)翻訳していた。

本発明の新規性はベッドに展開する粉末、粉末上に噴射する液滴を様々に組み合わせることができ、従来は3Dプリンタでの作製が困難だった医薬品(高用量医薬品、易崩壊性医薬品)などを高い自由度で作製できることにある。

その新規性を裏支えしているのが、正確にボクセル単位(立方形。具体的なサイズについては不明)で液滴の噴射や放射線の照射を制御できる技術である。

 

液滴のサイズ、量、噴射位置がそれぞれ何を指しているのか、なぜ制御する必要があるかは翻訳時に原文を読んだ時にわかった。

ただし、翻訳前に「様々な種類の製剤を3Dプリンタで作製するためにはこれらのパラメータの制御が必要になるだろう」という先読みはできていなかった。

そのため、原文を見たときに「size of droplets」「amount of droplets」「specific target place」が「液滴噴射時のパラメータ」としてまとまって浮かび上がってこなかった。

結果として、「specific target place the exact placement」をひとまとまりと認識し、誤訳した。

 

 

対策

主語、述語、修飾部分を意識して読めていないことが最大の原因と考える(主語はどこだ、と考えたら正しい区切りが見えたはず)。

秀丸上で区切る時に、すでに下記のように区切ってしまっている。

By managing size of droplets, /
amount of droplets and specific target place the exact placement on /
and penetration depth in a substrate /
can be precisely controlled.

一度区切ってから間違いに気づくこともあるが、今回のように区切りが原因で間違いが見えなくなっていることもある。

対策として、秀丸上での区切り方を変える。

文章の骨格をつかんでから区切る。パッと見て文章の骨格がつかめない場合、まずは主語、述語、修飾部分などでざっくりわける。

文章の骨格をつかんでから、必要があればその内部をさらに分ける。

1/28追記

翻訳作業開始前に、明細書のコアとなる部分が何なのか、その時点での理解をもとに「知子の情報」へアウトプットしておく(「翻訳スキーム」へ追記)。

ビデオでお話があったように、ひとまずこの明細書に対する「自分軸」を持って、先読みしながら読むことが目的。

具体的には、下記のように記載する(これは翻訳後に書いたので実際はもっと簡単な記載になると思うが、コアとなる技術が何かについては翻訳前にざっと理解できる範囲で原文などを読む)。

 

【背景技術・前提】

・個別化医療の推進によってテーラーメイドの医薬品に対する需要が増えている
・これまでの3Dプリンタを用いた製法もあったが、プリント可能な医薬品有効成分が少なかった(材料への要求が高かった)

【発明が解決しようとする課題】

下記を満たす3Dプリンタを用いた医薬品製造の方法。
・多くの医薬品有効成分に対して適用可能
・医薬品有効成分を高用量で含有させることができる

【課題を解決するための手段】

・粉末上にインクジェット方式で正確に液滴を噴射する作製方法
・使用できる粉末・液滴を柔軟に組み合わせ、ボクセル単位で精密に物性を制御する。

【発明の効果】

・従来3Dプリンタでは製造できなかった、様々な種類の医薬品有効成分を有する薬剤を3Dプリンタで製造可能となる(特に高用量、易崩壊性の薬剤)。

 

ミス2:明らかに不自然な訳文に気づかない

下記中の「上述のプロセス」は、本来であれば粉末上に液体を噴射して反応させてから放射線照射で固化させるところを、液体噴射なしで粉末を直接照射することで反応・固化させるプロセスのことを指しています。

原文:

In some instances, the speed of the processes described above may be improved by pre-heating the build chamber, the powder bed or powder supply with a suitable method without disrupting the powder bed.

当初訳:

場合によっては、上述のプロセスのスピードは造形チャンバー、粉末床又は粉末供給部、粉末床を崩壊させない好適な方法により予熱することで向上し得る。

公開訳:

いくつかの場合、上述のプロセスの速度は、構築チャンバ、粉体ベッド又は粉体供給、適切な方法で粉体ベッドを崩壊させることなく、予備加熱することによって改善することができる。

ミスした箇所とその原因

訳文の「予熱する対象」が誤っている。

(下記の靑字の「を」が抜けているため、「造形チャンバー、粉末床又は粉末供給部、粉末床を崩壊させない好適な方法」と読めてしまう)。

場合によっては、上述のプロセスのスピードは造形チャンバー、粉末床又は粉末供給部、粉末床を崩壊させない好適な方法により予熱することで向上し得る。

 

予熱する部分が造形チャンバー、粉末床、粉末供給部ということは理解して訳していた(はず)だが、自分の訳文のおかしさに気づいていない。

訳出時の問題、チェック時の問題の2つがある。

 

訳出時の問題は、やはり秀丸で区切るときにおかしな区切り方をしていること。

当初、次のように区切っていた。

In some instances, /
the speed of the processes described above /
may be improved by pre-heating the build chamber, the powder bed /
or powder supply with a suitable method without disrupting the powder bed.

ただ、その後に間違えに気づいたのか最後の一文をつなげている(それでもおそらく上の区切りに引きずられておかしくなっている)。

may be improved by pre-heating the build chamber, the powder bed or powder supply with a suitable method without disrupting the powder bed.

 

チェックはマーカーで逐語で消し込んでいく方法と、訳文だけを読む方法(黙読)で行っていたが、誤りに気づかなかった。

 

1/28追記

文章の意味、それぞれ(造形チャンバー、粉末床、粉末供給部)の役割と場所について「わかったつもり」になっていた。

それぞれが3Dプリンタの構成部品であるというくくりで見えていなかった。

原因は、同種の方式の明細書などを読み込んでいないため3Dプリンタの構成部品やその動きになじみがなく、この3つがまとまりを持って見えなかったことによると考える。

 

 

対策

(1)ミス1と同様に、文章の骨格を見極めてから秀丸で区切る

(2)訳文は必ず音読する(通常の実ジョブスキームには入れているが、今回の対訳学習では早く次に進めなくてはという思いから音読をスキップしてしまった)

1/28追記

翻訳前に類似特許(同じ方式、原理で動作する機械の明細書)を読み、機械の動きや名称について理解する。

今回事前に読まなかったのは、「医薬品製造用途の3Dプリンタ」については参考となる日本語明細書が探せなかったため。ただ、医薬品製造用途でなくても、広く見れば同じような方式の3Dプリンタの明細書はあったので、用途のみに注目せずに原理・方式などからも類似特許を探すようにする。

 

 

ミス3:drug containing layers with different shapes

原文:

By assembling drug containing layers with different shapes solid pharmaceutical administration forms of any three-dimensional shape can be easily obtained.

当初訳:

様々な形状の層を含む薬剤を組み合わせることによって、任意の三次元形状の固形医薬品投与剤形を容易に得ることができる。

公開訳:

様々な形状の薬剤を含有する層を組み合せることによって、任意の三次元の形状の固形医薬品投与形態を簡単に得ることができる。

ミスした箇所とその原因

「drug containing layers with different shapes」のcontaining以下がdrugを修飾していると勘違いした。

「層を含む薬剤」、「薬剤を組み合わせることで~薬剤を得る」の日本語としてのおかしさにチェック時にも気づいていなかった。

1/28追記

3Dプリンタで作製した医薬品がどんなものか、またどのように作製するのかについてはYoutubeなどで確認していた(今回と似たような方式では、例えばhttps://youtu.be/BsSJWqxk2Ek )。

しかし、翻訳時にはdrugを見た時にひとかたまりの薬(錠剤)と見ていて、有効成分を含む層が積み重なってできているもの=drug、と意識できていなかった。

動画や画像、明細書の図を見て理解したつもりでおり、自分で再度明細書の図を書き起こしたり、錠剤がどのように出来上がっていくかをコマ送りで図解するということをしていなかった。

そのため、drug containing layersを見た時に、瞬時に一層一層からなる薬剤が思い浮かばず、薬剤と層の包摂関係がおかしいことに気づかなかった。

 

 

対策

(1)containing / contained をJustRight!に登録して包摂関係を確認するようにアラートを設定する

(2)チェック時に必ず訳文を音読する

1/28追記

明細書に図が添付されていて、その図を理解したとしても、もう一度自分で図解して構成要素間のつながり、製造方法であればその製造工程を理解する。

 

まとめ

この題材のミス分析はこれで終わります。

上記と、昨日の下記3件の誤訳メモも含めたまとめです。

 

ミスは、係り受けや文の構造を理解せずに訳している(そして、理解していないことにすら気づいていない)ことに起因するものがほとんどでした。

個別に機械的に対策するもの以外として、下記を徹底することで同じミスの発生を防ぎます。

  • 翻訳時に少しでも違和感を感じたら後で見直せるように記録に残す
  • 文の骨格をつかんでから秀丸で区切る
  • 自分で訳した後、都度PAT-Transerの訳と比較する(思い込みによる単語・文法レベルのミスがないかの確認)
  • 訳文を音読する

今回のミスは印刷して、お手洗いのコルクボードに貼り付けて常に意識するようにします。

 

1/28追記:

ビデオを視聴して、「先読みできるレベルで明細書を理解していない」ことが最大の原因であると感じた。

そして、「先読みできるレベルで明細書を理解する」ために、下記を実行していく。

  • 「だいたいわかった」と思ったときはだいたいわかっていないので、理解できているか図解する
  • 翻訳前に、明細書の何がコアの部分なのかを書き出す(完全でなくても)
  • 類似特許は必ず複数件読む

1/28 追記2:ビデオ視聴感想など

ビデオ内の、「先読みするというのは自分軸を持つということ」という趣旨のお話がとても刺さりました。

確かに、何の判断基準もなければ「ずれ」や「差」を確認できる対象物がないわけで、違和感を持ちようがないですよね。

さらに、仮に間違って理解していても、明細書で説明されている技術と自分の考えが異なっているとわかれば、「なぜ違っていたのか」と新たな気づきを得てノートにまとめておくことで、自分の財産にすることができます(これもビデオでのお話の通りです)。

 

今回も、私は当初の記事(1/27アップ分)で自分がミスを分析できていると思っていました(今となってはお恥ずかしい限りですが)。

それでも、それはその時の私の「ミス分析」の軸でした。それを出したからこそ、「それは分析ではない」とフィードバックを頂けたのだと思います。

今回の分析も「まだ甘い」部分があるのかもしれません。今やっている翻訳学習は1文ごと、あるいは1時間ごとで対訳と比較して検討しているため、もう少し精度よく分析できると思います。

その時にまたこの記事を見返したら、別の気づきがあるのではないかと思います。

引き続き、対策を練る→実行→効果の検証を繰り返します。